気候変動の下での適応進化

昨日まで3日間、「気候変動に対する種分布域の反応の理解・予測への生態・進化学的アプローチ」("Eco-Evolutionary Approaches to Understanding and Predicting the Response of Species Range to Climate Change")というワークショップを開催した。パリ第11大学のPaul Leadleyと私がオルガナイザーをつとめ、海外から14名の研究者を招聘した。第一線の研究者による討論を通じて、今後の研究の方向性に関する意見論文をまとめるという趣旨の会議だったので、広く参加者を募ることはしなかった。
EUEVOLTREEプロジェクトのリーダーであるAntoine Kremerの講演「ヨーロッパの樹木における重要な機能形質にみられる局所的および広域的表現型変異の遺伝的基礎に関する証拠」"Evidence for a genetic basis for local and range-wide phenotypic variation in key functional traits in European trees"は、とても面白くて、迫力があった。共通圃場試験、相互移植実験、QTL/相関マッピング、候補遺伝子解析などを駆使した研究成果には厚みがあり、他の追随を許さない研究水準である。芽吹き時期の変異に標高・緯度に沿った遺伝的変異があることを示す証拠に加え、可塑性が表現型変異の大部分を説明するという明快な証拠が紹介された。遺伝子へのアプローチだけでなく、共通圃場試験、相互移植実験によって表現型変異をしっかり調べているところが強い。この点では、日本の研究は決定的に遅れている。スギなどの有用樹種では、種苗を移動できる範囲が決められているので、共通圃場試験、相互移植実験ができないそうだ。それならば、広葉樹でやれば良い。常緑広葉樹やネムノキ・カラスザンショウのような暖温帯の落葉樹が、温度や雨量の勾配に対してどのように反応するかについて、共通圃場試験、相互移植実験で調べるプロジェクトを推進すべきだと思った。EUのプロジェクトで調べられている種はいずれも風媒落葉樹なので、芽吹きや落葉のフェノロジーについては詳しく研究されているが、開花フェノロジーについての研究はななされていない。開花フェノロジーは繁殖干渉に関わる点で重要なので、虫媒の種について開花フェノロジーの研究を進める必要があると思った。
Andrew Gonzalesによる講演「生態・進化的分布域動態と環境変動」"Eco-evolutionary range dynamics and environmental change"は、環境勾配に対する個体数と進化の動態を酵母を使って実験的に検証した研究成果の紹介。昨年のパリのワークショップでも彼はすばらしい講演をしたので、今回も招聘したのだが、招聘して良かった。昨年よりもさらに研究が深まっており、理論的予測をきちんと検証している部分もあれば、理論では予測できなかった意外な結果もあり、すばらしい内容だった。
日本からのM君の発表も、実験デザイン・実験結果ともに明快で、参加者から高い評価を受けた。この方向でさらに研究を進めてくれれば、日本を代表する成果として国際的にアピールできるだろう。