テオプラストスの植物誌の先見性

昨日ツイッターに投稿した記事を転載します。

テオプラストス「植物誌」が届いたので夕食後に読み始めたが、驚きの連続。さすがはアリストテレスの弟子だ。「動物誌」を書いた師にリュケイオンの学長を任されたのも納得。イチジクからイチジクコバチが出てくることまで書いてあるよ。ひえ〜。これが紀元前の本かよ。邪馬台国以前の本かよ。

テオプラストス「植物誌」を読むと、当時のギリシャの人たちがオリーブ、オーク、リンゴ、ザクロなど多くの樹木を育種し、取り木や接ぎ木で苗を育てて品種を維持していたことがわかる。萌芽を利用した林業もあった。ギリシャ文明が自然と敵対したという見方は一面的だ。江戸時代の本草学を上回る水準。

テオプラストス「植物誌1」2008年。植物誌2」2015年。小川洋子訳。京都大学出版会。合わせて約一万円を払う価値がある。小川さんの偉業に感謝。植物学者なら一度は読んでおきたい本だと思い、以前から気になってはいたけど、梅原さん安田さんのギリシャ文明観に疑問を抱いたおかげで、読む機会を得た。

それにしてもギリシャ文明って何でこんなに凄いんだ。アリストテレスが「動物誌」でカッコウの托卵を記述しているのを知った時にも驚いたが、テオプラストスはイチジクコバチを記述してた。さらに種子由来の変異、フェノロジーの多様性、有機農法、木材工学などなど。荘子孟子と同世代とは思えない。

考えてみれば、シュメール の泥んこ文明が粘土板に文字記録を残す方法を発明したのがBC 約3000年だから、ギリシャで自然哲学が発展するまで約2500年の文字を使った知識の進化があったんだ。2500年をかけた文化進化の結果だもんね。中国での青銅器金文はBC1000年ころからで、紙の普及はAC100年ころ。

テオプラストスは自生植物と栽培植物を区分していますが、栽培植物の種子をまいて育てると自然の変異が生まれると書いている。自生植物でも栽培すると大きく形を変える。生育する環境(トポス)を理解することが大事という指摘は、相互作用に注目していて、とても生態学的です。