野付半島のエゾカンゾウ

yahara2008-07-19

小清水原生花園には、エゾキスゲの群生があるが、エゾカンゾウニッコウキスゲの北海道型)は自生していない。エゾキスゲは花が黄色で、昼にも夜にも咲く。夜にはスズメガ訪花することが、Mさんの調査で確認された。エゾカンゾウは花がオレンジ色であり、開花は昼のみ。おそらく蝶やハナバチが訪花するものと思われるが、訪花昆虫の調査は行われたことがない。
小清水原生花園から20kmほど北にあるワッカ原生花園にはエゾカンゾウが群生しているというので、昨日はワッカ原生花園を訪問した。しかし、ワッカ原生花園のエゾカンゾウは減少が著しいようである。昨年は数株が見られたそうだが、今年は発見できなかった。
今日は知床半島の南に位置する野付半島まで足を伸ばした。野付半島にはエゾカンゾウの群生地が知られている。訪問してみると、確かに大群生が見られた。写真は野付半島で撮影したもの。背後にはノハナショウブの大群生があった。
野付半島のエゾカンゾウ群生地は、小清水原生花園と同様に海岸に面した草地である。生えている植物はきわめて共通性が高い。しかし、小清水原生花園で群生しているのはエゾキスゲであり、野付半島で群生しているのはエゾカンゾウである。いったいなぜだろう。
小清水原生花園ではマルハナバチ類をまったく見かけないが、野付半島ではセンダイハギやエゾフウロマルハナバチ類が訪花していた。センダイハギに訪花していたのはおそらくエゾナガマルハナバチ、エゾフウロに訪花していたのはおそらくシュレンケマルハナバチ。今日は観察できなかったが、おそらくエゾキスゲにもマルハナバチ類が訪花しているのではないだろか。野付半島ではマルハナバチ類をはじめ昼間の送粉昆虫の利用度が高いために、昼咲きのエゾカンゾウが有利なのだろう。
一方、小清水原生花園では、マルハナバチ類の利用度が低いため、夜間にも咲くエゾキスゲのほうが有利なのではないだろうか。
どちらか1種だけが群生しているので、おそらく競争排除が起きたものと思われる。この競争排除の過程では、種間交雑が生じたかもしれない。遺伝子レベルでは、エゾキスゲとエゾカンゾウの間で、種をこえた遺伝子流動が起きた可能性がある。