論文原稿改訂のためのチェックポイント(1)
指導教官にとって、大学院生やポスドクの論文原稿を改訂する作業は、生産的だが苦しい作業である。とても良く書けていて、内容にコメントすれば本人が自力で原稿を改訂できるというケースは、稀である。通常は、初歩的な文章の書き方から指導を始めることになる。
以前から、「論文原稿改訂のためのチェックポイント」を作りたいという構想を持っていた。今回、この構想を実行に移すことにした。数日前にAさんから原稿をあずかった。この原稿はかなり良く書けている。しかし一方で、大学院生やポスドクの論文原稿を改訂する際にしばしば遭遇する、共通性の高い問題点が目にとまった。そこで、これらの問題点を「チェックポイント」として一般化しながら、原稿の改訂作業を進めてみた。
以下は、イントロの7割程度を改訂した段階で整理できたチェックポイント。現状では原稿に登場した順に並べており、まだ体系化していない。当分の間、このようなチェックポイントを書き出す作業を続けてみよう。そして、項目がたまった時点で、体系化してみようと思う。
(1) より簡潔な表現はないか?
(2)andで結ばれた複文の場合:主語を統一して単文にできないか?
(3) 意味があいまいな主語を使っていないか?
(4) 同じ内容を言い換えて、余分な記述をしていないか?
(5)理由を述べる表現(Thus, due to, becauseなど)は、単純明快な論理構造をつくっているか?
(6)estimate(統計的推定)とそれ以外の計測・計数に関する表現(measure, calculate, compute, determineなど)を厳密に使い分けているか?
(7)importantという表現を用いる場合:なぜ重要かについてきちんと説明しているか?
(8)複雑な構造の長い文章を書いていないか?
(9)語順の論理的あいまいさ(syntax error)はないか?
(10)ワードの文法チェック機能で文法エラーが指摘されていないか?
(11)先行研究の批判的引用:批判する理由を明快な論理で述べているか?
(12)不正確な省略をしていないか?
Aさんには、これらの項目の下に、原稿の文章と改訂した文章を併記して、メールを送った。これまで原稿をあずかったままいたずらに日数を重ねることが多かった。今回のように対応すれば、改訂できた範囲を数日以内に本人に返すことができる。また本人は、チェックポイントに沿って、原稿全体を改訂することができる。
このような対応ができるのも、大きなプロジェクトやその報告をかかえていないからである。今年のうちに、論文原稿改訂の指導を効率よく進めることが可能な仕組みをきちんと作っておきたい。