15度の道北から30度の福岡へ、そして「崖の上のポニョ」

ぎりぎりまでデータをとりたいというMさんの希望をかなえたため、女満別空港に到着したのは離陸のほぼ15分前。事前にレンタカー事務所に連絡を入れ、ガソリン代を事務所払いにしてもらった。スタンドで給油していたら、予定の便(東京行き最終便)に間に合わなかっただろう。
小清水は今朝も霧雨が降り、気温は15度だった。ところが、福岡空港の気温は30度。しかも蒸し暑い。気象庁のデータを見たところ、最小湿度47%とある。空港に着いたころは、60%は越えていたのではないか。
Mさん曰く。「温泉の浴室みたいですね」
小清水での宿泊先(原生亭)には良質のアルカリ温泉があり、われわれは毎晩小さな浴室で温泉につかっていた。温泉の浴室の温度が、ちょうど30度くらいである。もちろん湿度は90%をこえていると思うが、気温30度・湿度60%なら、「温泉の浴室みたいですね」という形容は、かなり正確である。
「下宿の玄関口でころんだりしないように」と忠告したうえで、Mさんとは空港で別れた。
家に電話を入れてみたが、予想どおり誰も出ない。そこで地下鉄車内で映画館の上映スケジュールをチェックし、ラーメンスタジアムで夕食をとったあと、8時45分から「崖の上のポニョ」を見てきた。
キャナルのシネマ13にしてはめずらしく、全席指定。座席は7割程度うまっていた。夜の時間帯なので、子供づれは少なく、カップルが観客の大部分をしめていた。
子供向けの楽しい映画である。もちろんそれだけではないのだが、まずは純真な気持ちで、水やキャラクターの動きをまず楽しみたい。とくに、水の描写はすばらしい。水をこんなに楽しく、こんなにおそろしく、そしてこんなに透明に描けるのは、世界広しといえど、宮崎ハヤオだけだろう。
アニメ作りの技術の点で、ハヤオ監督の実力をたっぷりと見せてもらった。シンプルな絵でしかも水が見事に動いている。
これは、仕事にのめりこんでばかりで、息子に接する時間がすくなかった父親の、息子への贈り物である。「ゴロウ、絵はこうやって動かすんだよ」と実演してみせているのだろう。
金魚から変身したポニョは、「トトロ」のメイを思い出させる。「ポーニョ、ポニョ、ポニョさかなのこ」という歌も、「となりのトットロ、トットーロ」に通じるメロディラインだ。
私は楽しんで見た。
しかし、映画が終わって席をたったカップルの男性は、「さっぱりわからん」とつぶやいていた。
たしかに、よく考えないとわからない部分もある。私はそういう部分をあとで考え直してみるのが好きなので、全部を説明してしまう必要は感じない。
とくに、ポニョが赤ん坊に興味を示すシーンは、面白かった。監督がこのシーンにこめた意図を、私なりに考えてみた。
ポニョは金魚なので、赤ん坊時代を経験していない。そのポニョが、人間の世界にやってきて、赤ん坊を見たら、どんな風に感じるだろう。好奇心いっぱいのポニョが示す行動を想像してみるのは楽しい。ポニョの目線で世界を見ている監督は、赤ん坊に対するポニョの行動を描かずにはいられなかったのだろう。これが上記のシーンを描いた第一の理由だと思う。
もうひとつ、理由が考えられる。宗介は、金魚だったことを知りながら、ポニョを受け入れる。これに対して、ポニョの側でも、宗介がもっと小さかったころにどんな姿をしていたのかを知り、そしてそれを受け入れるというプロセスを描いておきたかったのだろう。宗介に一目ぼれしたポニョが、人間の子供についてより深く理解するプロセスとして、このシーンが描かれたように思った。
解釈の余地が残されたシーンをいろいろな角度から考えてみるのは、楽しい作業である。