ももクロの適確な判断力

古市憲寿著『誰も戦争を教えてくれなかった』(講談社)を通勤電車の中で読んだ。著作の本体よりも、巻末に掲載されているももクロの対談のほうが、百倍くらい面白かった。古市さんは大変な勉強家だ。さらに、世界中の戦争博物館を見てまわるという行動力も持っている。その知識と経験が詰まった本書を読むと、とても勉強になる。しかし、目からうろこは落ちなかった。ところが、巻末の対談では、目からうろこが、少なくとも数枚は落ちた。

古市:国のトップが全て理性的だったらいいんだけど、彼らも人間だからなあ。政治や外交って、そういう人間らしい世界で動く面もある。
彩夏:何が大切かは、本当はわかってるんだろうけどね。うちらでもわかるくらいだから。
夏菜子:でも逆に忘れちゃうかもね。うちらなんて難しいことわかんないけど、難しいことばかり考えてる人は単純な考えができない。もしかしたらバカな人が必要なのかも知れない。今すごい自分に希望を持った(笑)。

なるほど確かに、外交戦略というような「難しいことばかり考えてる」政治家は、人を殺す戦争はダメ、相手の立場を思いやろう、という小学生レベルの単純な考えができない。夏菜子の指摘は核心をついている。このような、核心をつく判断力を育てるのは、知識ではなく、周囲の愛情と本人の生き方なのだ。
ももクロのリーダー、百田夏菜子のお母さんが娘にあてた手紙(Quick Japan109号所収)を読むと、彼女がいかに愛されて育ったかがわかる。「まずは生まれてきてくれてありがとう」で始まるこの手紙はすごい。「人生に無駄なことはない、毎日笑って過ごそうね」「夏菜子の宿命が人を幸せにすることであるのなら、あなたは笑顔で生きていけばいいと思います」「太陽の子、夏菜子!! もっともっと高く飛べ!!」。こんな親に育てられ、自分の好きなことを自由にさせてもらったから、「太陽の子」が育ったんだろう。他の4人のメンバーも、愛情にあふれた家庭で育った。愛されて育てば、他人を信頼できるから、まっすぐな判断ができる。

夏菜子:戦争とは違うんですけど、私たちに何ができるかという話でいえば、この間、宮城県の女川町に行ってきたんです。行く前は勝手に暗い町だって想像してたんですけど、実際はすっごい明るい。
詩織:すごく温かく歓迎していただいて。
夏菜子:私たちが歌って踊って、女川町の人に元気になってもらいたいってのも、もちろんあるんですけど、私たちがそこで美味しいものをいろいろ食べて、「この店美味しいんだよ」っていうだけでも、いろいろなものにつながる。・・・
れに:私たちが自分たちの目でしっかりとその状況を見て、伝えることによって、東北地方以外で興味を持ってくれる人とかもいるわけじゃないですか。海外でも同じことが言えると思うんです。時間はかかってもいいから、いろんな国に行って、自分たちの目で見て、それを日本に持ち帰って、伝えることは伝えていきたい。

女性の社会進出が進むなかで、このような子供たちが増えているに違いない。以前にも書いたが、今は、少なくとも若い女性にとって、「こんな生活をしたい」という夢がかなう可能性が大きくひろがっている時代だ(http://d.hatena.ne.jp/yahara/20130511)。ももクロの両親たちは、この時代の変化をしっかり受け止めて、子供たちの個性を伸ばして育てた。
ももクロの5人は、個性的ではあるけど、たった5人の例外ではないはずだ。おそらく、この日本にはたくさんのももクロ予備軍が育っているに違いない。それはすばらしい希望だ。