安倍次期首相は早くも現実路線

安倍次期首相は、竹島を日本に編入した日にあたる2月22日に政府主催の式典を開くという自民党の公約について、「総合的な外交状況を踏まえて考える」と述べたそうです。そして今日、韓国に特使を派遣するとのこと。すばやい現実的な対応です。これで日韓関係は改善されますね。中国も、この対応を好感するでしょう。尖閣に公務員を置くという公約についても、先送りされるでしょう。
皮肉なめぐりあわせですが、タカ派とみなされている安倍次期首相が現実路線をとって日韓、日中の関係改善に努めるのは、日本にとっては朗報です。これをリベラル派がやれば、タカ派から批判されますが、安倍次期首相がやれば、日本の総意として、歴史に残っていきます。
今後の大きな問題は、経済政策ですね。さらなる金融緩和と大規模な公共投資は、一時的には効果があると思いますが、日本経済が直面している構造的な問題を解決する処方箋にはならないと思います。高度経済成長時代には、人口(つまり労働力と消費者)が増える一方で、道路や鉄道・空港などの交通・流通網を整備することで新たな需要が生まれました。しかし今や、人口は減少傾向にあり、国内市場はこれからどんどん縮小します。また、交通・流通網の整備に、以前のような大きな経済効果は期待できません。一方で、韓国・中国・インドなど、アジア諸国の経済力・競争力が増し、EUアメリカ合衆国は、日本と同様に、経済的な難題をかかえています。円高は、このような国際環境の変化の中で起きています。このような構造的な問題を解決しない限り、金融緩和と大規模な公共投資には一時的な効果しかないでしょう。その結果、国の財政赤字が膨らむのは、マイナスです。来年夏の参議院選挙までに、このことを国民が広く認識するようになるのでしょうか。それとも当面の政策が功を奏して経済が上向き、構造的な問題を先送りしたまま参議院選挙を迎えることになるのでしょうか。不確定性は高いのですが、私はあと半年あまりの間に、構造的な問題がさらに顕在化し、それに真剣に対応せざるを得なくなるのではないかと予想します。
子供手当で国民の懐を温めるという民主党の政策は、私は有力な選択肢だったと思います。残念ながら、民主党にはこれを実現する実行力がともないませんでした。単なるばらまきではなく、若い世代への所得移転なのだ、日本経済をたてなおすにはそれが必要だという強いメッセージを国民に送ることができれば、状況は違ったかもしれません。また、ポスドク支援をあたかもニートへの予算のばらまきかのように見なして事業仕分けでいじめたのは、ひどかった。政策に一貫性がありませんでした。
いまの日本では、高齢者は貯金をたくさん持っています。その財産を子供が相続するのは、ほぼ定年のころ。定年になると、将来が不安なので、できるだけ使いません。そういう悪循環で、膨大な貯金が消費にまわらず、内需不足の原因となっています。一方で、若者の所得は減っています。そのため、本来なら子育てをふくむ、将来につながる消費をしなければならないのに、その消費が先細っている。学生の本への支出は長期低落傾向で、最近では教科書すら買ってくれません。そのため本の価格はあがり、学生はますます買わないという悪循環。このような悪循環が、教育や子育てに関するさまざまな商品で生じています。したがって、子供手当を増やしたり、高校の授業料を無料化したり、ポスドクを支援したりして、若い世代の所得を増やすのは、公共事業に200兆円もつぎ込むよりも、長期的に日本経済を良くしていくと思います。今回の選挙で、そういう政策をきちんと主張できる政党がほとんどなかったことが、残念でした。しかし、今後はこのような主張が、次第に支持をひろげていくのではないかと思います。