ももへの手紙

主人公の少女ももは、親子3人でコーラスの演奏会に行くのを楽しみにしていた。しかし海洋生物学者の父親は、約束の日に、約束を反故にして、調査に出かけてしまう。悔しさのあまり、ももは父親に、「もう帰ってこなくていい」と言い放った。そしてそれが、父親との最後の別れになってしまった。父親は、調査船の事故で、あえなくこの世を去ったのだ。葬儀のあと、ももは父親の引き出しから、「ももへ」とだけ書かれた便箋を見つける。父親はいったい、ももに何を伝えたかったのか。ももはわだかまりを残し、疑問をかかえたまま、母親と瀬戸内海の小島にひっこしてきた。島での暮らしでは母親との間でも気持ちが通わず、「お母さんはお父さんを忘れてしまったのよ」と母親にもつらくあたる。やがて、ももの行動は、母親のぜんそくを再発させる。しかし、台風が近づく中、別の島に往診に出かけた医者は、小島に戻れない。母親に命の危機が迫る中で、ももは母親の父親への思いを知り、母親を救うために・・・。
これは少女ももが成長し、家族の愛を取り戻す物語。その手助けをするのが、見守り組の妖怪、いわ、かわ、まめ、の3人組。妖怪たちはそれぞれにキャラが立っており、ユーモラス。笑いあり、涙ありの、家族向けアニメ。絵も美しく、ゴールデンウィークに子供と一緒に親が観るアニメとして、安心して薦められる作品だ。
しかし、観終わったあとに、満足しきれない思いが残った。どうしても宮崎アニメ、たとえば「となりのトトロ」を思いだし、比べてしまうのだ。そうすると、この作品の弱点が見えてしまう。
第一に、この映画はいったいどの年齢層の子供に向けて作られたのだろう。宮崎アニメは、このターゲッティングが明確だった。「トトロ」は小学生、「千尋」は中学生、「耳すま」は高校生に明確にターゲットをしぼって作られている。だから大人が観ても、その年代の自分に重ねて、感情移入できる。この映画の主人公ももは、設定上は小学生。しかし、体つきは小学生だが、顔つきは大人びていて、中学生か高校生に見える。親に反発するのも、中学生的な行動だ。小学生でも高学年ならあり得なくはないが、ストーリーは中学生や高校生向けだと思う。案の上、土曜日にもかかわらず、観客に小学生はほぼ皆無。これでは、興行成績のうえでも苦戦するのではないか。
第二に、自然描写のリアリティが宮崎アニメに決定的に劣る。風景は美しく描かれてはいるが、森が落葉林なのか常緑林なのかわからない。瀬戸内海の小島なので植生は常緑林のはずだが、色彩が淡くて落葉樹の森に見える。このため、ももが島の自然のすばらしさに気付くシーンの描写に、いまひとつ説得力が足りなかった。パノラマのスケール感だけでは、リアリティが足りないのだ。同じ理由で、「夏」の季節感にも説得力が足りなかった。
第三に、見守り組の妖怪はユニークだし、クライマックスシーンもダイナミックで新鮮なのだが、「トトロ」や「猫バス」の圧倒的な存在感に比べると、どうしてもインパクトが弱い。これは第一の弱点とも関係する。小学生向けの作品なら、もっと子供の心を鷲づかみにするキャラにすべきだし、中学生向けなら、「ハク」のようなイケメンキャラがほしい。
あらためて、宮崎アニメの水準の高さを認識させられた。とはいえ、「ももへの手紙」は丁寧に作られた、十分に楽しめる作品だ。ぜひ多くの親子に観てほしい。