生態系サービスをもたらすのは生態系か?

IPBESアセスメントワークショップは、いよいよ大詰め。今日の時点で、アセスメントの枠組みについての提案文書はほぼ完成した。明日は、推敲を要する部分として、黄色でマークされた箇所を改訂する作業になるのだろう。
アセスメントのコンセプトや枠組みをしっかり考えて、文書化するという作業は、自然科学の研究とはかなり異質だ。私の場合、概念論や文書化作業が嫌いではないので、かなり楽しめた。ふつうの自然科学者なら、かなり苦痛をともなう会議だったことだろう。
私は、ストックホルム大学のThomas Elmqvist(http://www.ecology.su.se/staff/personal.asp?id=90)と一緒に、Data and indicatorのセクションを担当した。ワークショップの前に、dataについて250wordsで原稿を書いた。これだけ短い字数で、生物多様性と生態系サービスに関するデータの現状と問題点、課題について書く作業は、スリル満点だった。熟慮の末に練り上げた文章は、提案文書全体の度重なる改訂作業を生き抜いて、大部分が最終文書に残った。Thomasが担当したindicatorについての文章も、段落の順序は入れ替えたが、内容の大部分が最終文書に残った。どちらもスタートの時点での準備が良かったと思う。
Thomasの問題提起の中で、私が全面的に賛同したのは、「社会・生態系」から生態系サービスが生まれる、という視点。生態系サービスは、生態系機能と違って人間の利用によってはじめて生じるものである。したがって、人間社会の外にある生態系ではなく、人間の活動を包含する「社会・生態系」から生み出される恵みとみなすのが妥当だ。Thomas Elmqvistは、ストックホルムレジリエンス・センターで「社会・生態系」研究を推進しているキーパーソン(http://www.stockholmresilience.org/contactus/staff/elmqvist.5.aeea46911a3127427980004706.html)。昨年3月のCOP10プレ会議に続いて、とても良い問題提起をしてくれた。
「社会・生態系」のレジリエンス(回復力)にとって、多様性(冗長性)が重要だという点でも、見解は完全に一致した。彼のように、社会系と生態系の両方がわかる人材が、いま求められていると思う。

なお、IPBESについては、以下の解説が参考になる。

IPBES公式文書ダウンロードサイト