屋久島世界遺産研究フォーラム

今日は2時から、屋久世界遺産研究フォーラム「屋久島の価値と科学の役割」で基調講演をさせていただいた。このフォーラムは、明日の第一回屋久世界遺産科学委員会を前に、島民向けの公開講演会として開催された。基調講演のあとに、「求められる屋久島、期待される調査研究」と題するパネルディスカッションが開かれた。
屋久島は1993年に世界自然遺産に選定されたが、科学委員会が設けられていなかった。今回、科学委員会が設置されることになったのは大変喜ばしい。科学委員会は、世界自然遺産の価値を損なわないようにするために、科学の立場から助言や提言をする。屋久島ではこれまでにも多くの科学者が調査研究に関わり、屋久島の生物相や生態系の保全に関して意見を述べてきた。今後は、世界遺産科学委員会が、組織的に助言・提言を行うことになる。当然のことながら、世界遺産としての屋久島の価値の評価、そして屋久島の生態系への脅威の評価に関して、科学と科学者が積極的な役割を果たすことが期待される。
屋久島は、以下の2項目の基準に該当する地域として、1993年に世界自然遺産に選定された。
(1)陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において、進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
(2)ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
世界自然遺産の選定基準には、以下の項目もあるのだが、屋久島の場合には、おそらく資料として提出された調査資料が不十分だったために、1993年の時点では以下の基準を満たすとは評価されていない。
(3)生物多様性の現地保全にとって、もっとも重要かつ有意な野外生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。
この、3番目の評価基準を満たすことを示す証拠を提出することも、科学委員会のひとつの役割だろう。
基調講演の前半では、屋久島の自然に(1)〜(3)の基準を満たす価値があることを、屋久島の森林や植物種の写真を多用して説明した。自然の「価値」に関しては、言葉であれこれと説明をするよりも、写真を見ていただくのが手っ取り早い。まさに、百聞は一見に如かず、である。とくに、(2)に関しては、言葉で説明してもなかなか伝わらない。
後半では、屋久島の生態系が直面する最大の課題であるシカ問題に焦点をしぼり、2004年以来の調査結果をもとに、以下の疑問に答えた。
ヤクシカは本当に増えているのか?
---西部では約10倍増。南部では増えていない。
 原生林では餌不足のために減っているのではないか?
---原生林内でも増えている。
 林床植物が減ったのは林が暗くなったためではないか?
---暗い場所でも柵で囲えば林床植生が回復する。
屋久島の植物がヤクシカのせいで滅ぶことはない?
---コモチイヌワラビは滅び、ヤクシマタニイヌワラビも絶滅寸前。
 いずれ自然のバランスが回復するのではないか?
---林道が存在する以上、林道がなかった時代のバランスは戻らない。
---日本人は氷河時代朝鮮半島と九州がつながった時代)より前に日本に住み着き、シカを採り続けてきた。
もはや証拠は整った。どのような管理が望ましいかについての案も出した。あとはこれらの証拠をどう受け止め、いつどのように対策に踏み出すか、それが問題だ。
ここまでのスライドを、鹿児島空港ホテルで午前1時ころまでに作った。今日の午前中は、世界遺産センターで、最後の1枚に知恵をしぼった。シカ問題の話で終わるのは、どうも後味が悪い。そこで最後に、参加者に屋久島の未来に希望と誇りを持っていただけるようにという思いをこめて、「屋久島の強み」と題するスライドを付け加えた。幸いこのスライドは好評で、パネルディスカッションの最後に日高町長にもとりあげていただいた。
明日は、いよいよ第一回科学委員会である。