屋久島往復、西部林道のヤクシカ管理

今日は、屋久島森林環境シンポジウム「屋久世界遺産の危機と保全ヤクシカによる被害の現状と共存を考える」、に出席するため、屋久島を日帰りした。このシンポジウムの主催者は、九州森林管理局。林野庁行政が、ヤクシカを含むシカ対策に本格的に取り組むようになった。これは画期的な変化だ。この流れをぜひ良い成果に結び付けたい。ただし、新たな課題が浮上した。
一昨年まで、屋久島での害獣駆除によるヤクシカ捕獲数は、200−400頭程度だった。ところが、今年度は1月までの時点で、1400頭程度が駆除された。これは予想外だった。森林管理署職員による罠を使った駆除が功を奏した結果である。国有林内での駆除がまったく行われなかった数年前とは、まったく違った状況が生まれた。ここまで駆除が可能ということになると、個体群管理・生態系管理の目標設定についての合意形成や、駆除の効果の検証体制が大きな課題となる。
絶滅危惧植物が多い安房林道や小杉谷の場合、絶滅危惧植物の回復目標を設定し、駆除の効果をモニタリングすることは、比較的容易である。しかし、西部林道の場合、そもそも絶滅危惧植物がほとんどない状態だ。では、何を目標に生態系管理をすれば良いか。この点については、西部林道をフィールドに調査を続けている研究者とよく議論して、科学的な裏付けのある目標設定について合意する必要があると考えている。
私を代表として3年間実施した環境省プロジェクトでは、毎年現地報告会を実施して研究成果を紹介し、島内での合意形成につとめてきた。しかし、西部林道をフィールドに植生・ヤクザル・ヤクシカなどについて調査を続けている研究者は、この3年間の議論にほとんど加わっていない。西部林道で駆除によるヤクシカ管理が実施可能となった現時点では、これらの研究者を招いた議論の場が必要だ。そこで私が委員長をつとめる屋久世界自然遺産地域科学委員会では、京大のSさんを委員に依頼し、西部林道をフィールドとする研究者との連絡調整を始めた。私は徹底して情報を公開し、疑心暗鬼を招かないことが大事だと思っているが、事態は必ずしもそうなっていない。まずは、コミュニケーションをしっかりとることが重要だと思う。
屋久世界自然遺産地域科学委員会ではヤクシカワーキンググループを設置している。このワーキンググループでは、6月をめどに、ヤクシカの管理目標を設定する方針だが、その前に研究者の間でしっかり議論する場が必要だと感じている。
そこで、5月下旬に、西部林道をフィールドとする研究者に呼びかけて、屋久島で研究会を開きたいと考えている。まだ連絡調整をしていないが、ぜひ実現したい。
数年前までは、なかなか動いてくれない林野行政に対して粘り強くシカの駆除を要望するのが私の役目だった。しかし今は、個体群管理・生態系管理の目標設定についての合意形成や、駆除の効果の検証体制をとることに配慮したほうが良いという点で、私が行政に、ややブレーキをかける立場になった。目標も検証体制もないままに駆除に予算を使えば、予算を使った効果を検証できない。しかし、ヤクシカの管理に予算がつき、林野行政が生態系管理や生物多様性保全を目標とする事業に正面から取り組むようになったことは、画期的な変化だと思う。この状況下で、どうすれば予算をもっとも有効に活用できるか、どのような目標を設定し、どのように検証すればよいかについて、科学者として答える責任を感じている。