シカが増えた屋久島での生態系管理の目標

26日から29日まで、屋久世界自然遺産地域科学委員会現地視察のために、屋久島を訪問した。以下は、関係者のメーリングリスト屋久島から28日に書いたメール。
ヤクシカMLのみなさま

  • 昨日は、視察の下見をかねて、大川林道、西部林道(河原タワー〜600mプロット)、カンカケ岳頂上直下のシカ柵、宮之浦川下流を歩きました。シカ捕獲数自体の目標ではなく、生態系管理の目標をどう設定すれば良いかを現地で判断したいという意図で各地を見ました。
  • 大川林道では、昨年の罠捕獲地点の大部分が、花山林道入口より上であるのに対して、今年の罠捕獲地点が、より入口側であることを知りました。これでは、昨年と今年の比較ができないので、昨年と今年の両方で捕獲した地点だけ別に集計していただけるように依頼しました。この点に関しては、現場、森林管理署、熊本森林局の間の連絡がとれていないように思います。今日、現場で関係者間の調整をはかりたいと思います。
  • 大川林道では、間伐作業をしてやや明るくなった林分で、外来種のアブラギリだけが成長しているのが印象的でした。よく見ると、ヤクシマオナガカエデの芽生えや、ヤクシマコムラサキのいじけた稚樹が点在していますが、シカが食べるために、更新できていません。アブラギリはシカが食べないために、林道沿いや杉林内で急速に増えています。ヤクシマオナガカエデなど自生の樹木が更新し、アブラギリが優先しない状態、というのが有力な管理目標かと思いました。
  • また、低標高地では、ヘゴがほぼ完全に消失し、まったく更新できていません。シカが届く高さまで葉が垂れている株は、葉を引きちぎるときに先折れして、枯死しています。屋久島の低地広葉樹林の沢筋を特徴づける木生シダが更新する状態、というもの、もうひとつの目標となるだろうと考えました。
  • 河原タワー〜600mプロットでは、ヤクタネゴヨウをのぞいて、絶滅危惧種は発見できませんでした。西部林道では、30年前の時点で絶滅危惧種がほとんど見られず、植物相の点では貧弱でした。西部林道の植生の生態系管理においては、表土流出や、カシナガキクイムシへの対策が、絶滅危惧種対策よりも重要な課題になると思います。
  • カンカケ岳頂上直下のシカ柵では、絶滅危惧種のシダ植物が数種見られました。この地点から西部林道にかけて、標高別にシカ柵が設置されています。私はこの事業には関わっていないので(シカ柵は科学委員会の事業ではありません)、昨日まで、シカ柵の位置も規模もよく知らずにいました。シカ柵については批判的な意見があるようなので、問題点を把握したいと思います。一方で、カンカケ岳頂上直下のシカ柵は、絶滅危惧種保全という点では、効果があると思いました。
  • 宮之浦川下流は、大川林道以上にアブラギリが増えています。大川林道と同様に、ヤクシマオナガカエデなどの自生樹種や、ヘゴが更新できる状態を目標に、生態系管理を行うのが良いのではないかと考えました。具体的にはアブラギリを伐採し、伐採後地での植生回復の管理をシカ捕獲とセットで実施するのが良いように思います。
  • なお、一昨日午後は、空港から愛子岳山麓に直行し、3年前まで絶滅危惧種のツルランが群生していた場所を訪問しましたが、一本も残っていませんでした。付近で群生していたコクモウクジャクなどの大型シダ類も消えているので、シカ摂食の影響と思われます。愛子岳山麓では、絶滅危惧種の回復を管理指標としてモニタリングするつもりでいたので、あてがはずれました。

今回の視察で、鹿児島県がついに特定管理計画策定に向けて動き出したことを知った。今年度中に策定するので、できれば12月の早い時期に科学委員会を開いてほしいと要望を受けた。よくあることだが、動き出すと、ゆっくり検討する時間がない。今回の視察中に、拙速な目標設定にならないように、あらかじめ議論することができた。シカの捕獲数や密度自体を目標にするのではなく、「自生樹種が更新できる状態」など、生態系の管理目標を設定することが大事だという意見を述べた。おおむね、この方向で、合意ができたと思う。
早いもので、8月も、今日で終わりだ。