伊都キャンパスでの初授業

昨日の5時限目には、伊都キャンパスではじめて授業をした。全学共通科目「環境科学概論」の一コマを担当し、一年生を相手に「生態系・生物多様性」について講義をした。昨年までは講義をしていた六本松キャンパスは、3月末でその歴史に幕をおろした。かわってこの今年の4月から、伊都キャンパスで全学共通教育が実施されている。
例年、「環境科学概論」では、スライドを使わずに、板書と口だけで90分の講義を行ってきた。その理由は、冷房が入っていないこの時期に、暗幕をしてスライドを使うと、教室が蒸し風呂になってしまうからである。しかし今回は、学生に伊都キャンパスのかつての姿と、造成工事下での生物多様性保全事業の悪戦苦闘をぜひ写真で紹介したいと考えた。そこで、最後の15分程度を、スライドを使っての講義に切り替えた。蒸し風呂なるのを避けるため、暗幕をせずに、教室の後ろの窓を開けたまま講義をした。幸いスクリーンは十分に明るく、伝えたいメッセージを写真を使ってしっかり伝えることができた。
全学共通教育棟が建設された場所は、かつてはみかん園のあとに竹林が茂った斜面だった。竹林の林床には、フデリンドウやシュンランがたくさんあった。その場所が造成され、谷が埋められて殺伐とした裸の地面がひろがった光景も写真で見てもらった。
そうした造成工事の中で、多くの生き物たちを守るための対策をとってきた。いまではニホンアカガエルやツチガエルなども増え、生物多様性保全ゾーンは貴重なサンクチュアリとなりつつある。しかし、ゲンジボタルは減少傾向にあるし、何度も対策をとってきたミゾコウジュは今年ついに9株まで減ってしまった。ひとつひとつの種の行く末を見つめ、的確な対策をとる努力がなければ、少なからぬ種が失われていくだろう。私がいなくなっても多くの種が見守られていく仕組みを作る必要がある。
今年は、ムヨウランを移植した場所の近くで、ムヨウランが再発見された。何年も発生が見られなかったが、希望は持っていた。移植した場所からは少し離れているので、おそらく種子から発芽したものだろう。移植してから早いもので7年ほど経っている。ムヨウランに関しては、環境監視の項目にとりあげて、報告書にも書いてきたので、再発見が実現した。発見されたのは、環境監視を担当されているコンサルの方である。ミゾコウジュについても環境監視の項目にとりあげており、今年は種子を採集して株を増やし、生育適地に再導入することを計画している。この作業も、今サルの方の協力を得て行う予定である。種を確実に守っていくには、このような監視の仕組みとそれを継続する財政的裏づけが重要だと痛感する。