ハッピーフライト

今日は、天草臨海実験所との合同セミナーから3時過ぎに大学に戻り、5時から久しぶりに映画を観てきた。この間、映画を観るどころか、ブログを書く暇もない毎日が続き、さすがに疲れた。このブログを書いているレッツ・ノートを、アスファルト道路に落とすというドジをまたやってしまった。バッグのファスナーをきちんと閉めないままに背中にかつぐと、レッツノートが地面に落下することになる。これで5回目。よく生きているものだ。
観た映画は、ハッピーフライト。とても良かった。今年の邦画では、トップクラスの出来だ。
ハッピーフライトを観るつもりだとYさんに言うと、なんでそんな映画を観るのだと不満そうだった。しかし、Yさんは、JALが提携したバスケット映画と勘違いしているようだ。あの映画は太平洋上で観たが、ハッピーフライトとは雲泥の差がある。提携映画のクオリティでは、ANAの圧勝だ。
Yさんにはレッドクリフをみて感想を聞かせてほしいと言われたが、ハッピーフライトを選んで良かったと思う。
ホノルル行きのANA便が、トラブル発生のために成田に引き返し、台風の中を無事に緊急着陸に成功するという、ただそれだけの話。ただそれだけの話を、これほど見ごたえのある映画にしたてた矢口監督の実力はすばらしい。とくに主人公がいるわけではない。典型的な群像劇である。ポスターに大きく登場している綾瀬はるかがもっと中心的な役割を果たすのかと思っていたが、この予想は良い意味で裏切られた。
正操縦士試験を受ける副操縦士田辺誠一)と、試験官の機長(時任三郎)、客室乗務員(寺島しのぶ吹石一恵綾瀬はるか)、グランドスタッフ(田辺智子、平岩紙ほか)、オペレーションコントロールセンター(岸辺一徳肘井美佳ほか)、管制官、整備士、バードパトロールなど、安全な飛行を支える多くのプロフェッショナルたちの仕事がリアルに紹介されている。そのリアリティがたまらない。
もちろんかなり脚色はされているが、プロの仕事の描き方にリアリティがあるのだ。随所に思わずなるほどと思わされるシーンがあり、それがこの映画の見ごたえを高めている。
そして、ちょっとしたミスが事故につながることが、随所に描かれている。整備士は各自の工具箱に鍵をかけている。その工具がひとつ紛失すれば、整備スタッフ総出で捜索する。もし整備をした機体内に工具を置きわすれれば、大きな事故につながりかねないのである。
責任をあずかる立場のプロたちは、仕事に厳しい。ときにはぶつかることもある。しかし、一緒に仕事をするプロセスを通じて、プロどうしの信頼が生まれる。その信頼が、事故を防ぎ、そして危機にあたって力を発揮する。
こう書くと堅苦しい映画のように見えてしまうが、綾瀬はるか演じるはっちゃけた客室乗務員をはじめ、コミカルな役回りの登場人物を配置することで、映画を楽しいものにしている。綾瀬はるかの演技はやや大振りだが、キャスティングは成功していると思った。しかし、グランドスタッフを演じた田辺智子のほうが役者が上だ。彼女の役回りはかなり難しい。しっかり者だがコミカルで、仕事熱心だがそういう自分に不満で、仕事のために恋ができないと悩んでいるという役である。トラブル発生後のストーリーの中では、バードストライクの真相をつきとめるうえで重要な役割を果たし、最後はとてもハッピーなシーンでふてくされている役を演じる。もっとも、綾瀬はるかの軽さと、田辺智子の安定感の両方があることで、映画が面白くなっていることは確かだ。また、寺島しのぶは貫禄あるチーフアテンダントを、吹石一恵寺島しのぶ綾瀬はるかの間をつなぐ役をうまく演じていた。オペレーションコントロールセンターでの、岸辺一徳肘井美佳のやりとりも見事。個々の登場人物の個性が生き生きとしていて、群像劇として見ごたえがある。
オペレーションコントロールセンターと管制室が違うことをこの映画で初めて知った。オペレーションコントロールセンターについては、「ハッピーフライト公式ウェブサイト」(http://www.happyflight.jp/index.html)に紹介がある。また、ANAのサイトに、映画「ハッピーフライト」で登場するOCCとは?(http://www.ana-pr.jp/blog/etc/comment.php?_id=483)という解説記事がある。肘井美佳が演じた運航管理スタッフは、「ディスパッチャー」というそうだ。
羽田に向かって引き返してから着陸までのシークセンスは、最後は無事着陸するとわかっていても、ハラハラさせられる。機長・副機長や客室乗務員という、機内で危機に直面しているスタッフを描くだけでなく、オペレーションコントロールセンター・管制室・グランドスタッフなど、危機回避に全力を尽くす地上スタッフの活躍をリアルに描いているので、展開に意外性があり、おもしろい。緊急着陸が成功したときには、思わず拍手をしたくなった。