CBD専門家会合(続)

会議は、議長をつとめる中静さんによる講演から始まった。中静さんは、日本の生物多様性総合評価の枠組みとこれまでに得られている成果について、要領よく説明された。とてもバランスのとれた紹介だった。そのあとをうけて私が講演し、2回の植物レッドデータブック編集で得られたデータにもとづく、日本の野生植物の絶滅リスク評価の結果を紹介した。また、将来100年間で約8%の種が滅ぶという予測に加えて、トップ40地点(メッシュ)を守れば絶滅する種を半分に減らせるという評価を紹介した。この成果が、500名をこえる市民研究家の協力によるものだということも紹介した。
海外の専門家からは、「世界的に見ると、生物多様性の低い国は資金力がありデータを持っている(resource rich and data rich)。一方で、生物多様性の高い国では資金力が不足していて、データも少ない。しかし日本は例外で、biodiversity richで、なおかつresource rich and data richだ」という評価が寄せられた。
私は、市民と科学者が現場で協力している点が、日本の大きな特色だと思う。欧米にも市民と関わっている科学者はいるが、日本ほど多くない。そのため、専門家会議での議論は、ともすれば机上の空論に終わりがちだ。
科学的なモニタリングの点では、COP10で日本の取り組みに高い評価が下ることは間違いない、日本としては、モニタリングの成果を保全努力にいかにうまくつなげるか、という点に焦点をあてるのが良いのではないかと思った。
また、日本の役割として、アジアの生物多様性のモニタリングや保全に積極的に関わるという姿勢が重要だ。会議の中で、私は日本の森林は、アジア諸国をふくむ海外の森林伐採の犠牲のうえに守られているという点を強調した。この点は、COP10にむけての生物多様性総合評価に最初に関わったときから、環境省の方々にも強調してきた。この点をしっかり認めておかないと、海外からの信頼は得られないと思う。予想どおり、中国出身のCBD事務局スタッフから、日本は自分の国の生物多様性をしっかりモニタリングして守っているが、海外でのモニタリングにもしっかりとした役割を果たすべきだという意見が出た。
私は、まったく同じ意見だと述べたうえで、東南アジアの植物多様性の損失を定量的に評価することが重要で、その方向での努力をしたいと発言した。
日本と東南アジアでは空間スケールがまるで違うので、日本で採用した方法をそのまま適用することはできない。しかし、日本だって十分に広い。広大な面積での動態を少数のサンプルから推測するという点では、問題は同じである。東南アジアの植物種の損失速度を推定する方法に関しては、枠組みをすでに考えている。実行に移す予算がとれて、体制が組めれば、数年で成果を出すことは可能だ。
会議の最後では、CBD事務局のDavid Cooperさんが、Biodiversity Outlook改訂の計画を含め、COP10に向けてのパースペクティブを話された。彼が、日本の取り組みの特徴を以下の4点にまとめていたことが印象的だった。
(1) 生物多様性の取り組みの流れを中心的なものにしようとしている(streamlining biodiversity)。
(2) 人間と自然の関係を再建しようとしている(rebuilding the relationship between human and nature)。
(3) 森・里・川・海を結び付けている。
(4) 国際的な視野で考えている。
2番目と3番目の指摘では、日本の取り組みの特徴を的確に表現されていると思う。4番目は、日本がどちらかといえば弱い点だと私は感じている。しかし、アジア諸国からCBDのナショナルレポートに関わる関係者を集め、CBDから専門家を招いてトレーニングコースを含む会議を開くという今回の取り組みでは、日本の国際的役割をきちんと果たした。その点が高く評価された。
今日は京都に移動し、総合地球環境研究所に来た。もうすぐ「日本列島における人間自然相互作用」の研究会が始まる。頭を切りかえねば。