アース

美しい。月並みな表現だが、この映像に対しては、他の言葉が見つからない。ただ、ただ、美しい。
この美しさを作り出しているのは、水と、光と、そしてそれらに支えられた生命。
とくに、水の美しさは、この映画の白眉だ。描かれているのは、決して透き通った水ばかりではない。氷から濁流に至るまで、さまざまな水の表情がスクリーンいっぱいに映し出される。そこに暮す生き物はむしろ脇役に思えてくる。
この映画のタイトルは、アース。決して生物だけの映画ではない。
もちろん、生物はこの映画の主役のひとりであり、映画のストーリーの軸になっているのは、生物たちの旅である。
冒頭シーンでは、冬眠から目覚めたホッキョクグマの親子が、餌場となる海まで旅をする。アフリカでは、乾いたサバンナを何週間も歩いて、アフリカゾウの群れが湿地帯へと旅をする。ヒマラヤを越えるアネハヅルの群れや、赤道から南極をめざすザトウクジラの親子。これらの生き物に導かれて、観客は北極から南極へと、アースを縦断する旅をすることになる。
最後は、温暖化が進めばホッキョクグマアフリカゾウの生命を支える氷や水が失われるというメッセージで終わるが、このメッセージはかなり抑制的に語られていると感じた。
この映画は、迫力満点の映像を通じて、地球という星の奇跡的とも言える美しさを伝えることに徹している。この制作方針は成功しており、数々の映像は、どんなナレーションも及ばぬほど雄弁に、アースのすばらしさを物語っている。
ただ、欲を言えば、やはりロジックがほしかった。映像は、詩的ではあるが、ロジックに欠ける。ホッキョクグマがなぜ餌場から遠い場所で冬眠しているのか、アフリカゾウはなぜ数々の危険をおかしてまでサバンナを旅するのか、アネハヅルはなぜヒマラヤをこえる渡りをするのか。観客が持つであろうこれらの疑問に映画はほとんど何も答えてくれない。ザトウクジラについては、南極でオキアミを食べるのだという説明があったが、たったそれだけのために遠い旅をするのだろうか。
生き物の世界は不思議に満ちているが、この映画はその不思議についてはほとんど語らない。そこが、生き物好きとしては、大いに不満だ。
だから、この映画の主役は、やはりアースなのだと思う。とくに、水である。
オカバンゴの湿地帯にたどりついて泳ぐアフリカゾウは、水の中で、ほんとに楽しそうだった。まるで子供のように、水の中ではしゃいでいた。
このような水のある世界を、次の世代に残していきたい。素直にそう思わせる映画である。これだけの映像を撮影し、映画にしたててくれたスタッフに心から感謝したい。