JIN-仁-コミック最終巻とテレビドラマ続編

この半年ほど、あまりに忙しくて、「JIN-仁-」が完結したのを知らずにいた。龍馬が他界する18巻を読んだのが、一年ほど前のはずだ。20巻(最終巻)は、今年2月9日に発売されていた。多事がひと段落したので、19巻・20巻を手に入れて読んだ。謎が解けた。なるほど、こういう結末だったのか。納得したし、読後感も良い。満足だ。
主人公の仁は、脳外科医。身元不明の患者の脳を手術したところ、胎児の形をした奇怪な腫瘍があった。その「胎児」を摘出した患者が、「胎児」の入った容器を持ち出そうとするところを制止しようとして、なんと江戸時代にタイムスリップしてしまう。一歩間違えば、無茶苦茶な話になってしまいそうな展開だが、そこは村上もとか。仁が江戸時代の人たちの命を救うために、懸命に生きるドラマを、見事に描いた。江戸時代で使える技術を駆使し、現代の医療知識を生かして、コレラ・梅毒・脚気などに立ち向かう姿は胸をうつ。この医療ドラマだけでも面白いのに、咲・野風とのラブストーリーがうまくからみ、ストーリーに華やかさが加わっている。そして圧巻は、坂本龍馬西郷隆盛勝海舟をはじめとする幕末のヒーローが登場し、激動の時代を生きた男たちのドラマが生き生きと描かれていることだ。そしてそこに、タイムスリップと「胎児」の謎がからむ。これだけの要素を盛り込みながら、よくぞ失速せずに、最終話までつないだものだ。
20巻のあとがきによれば、村上もとかがこの漫画を書くきっかけになったのは、「江戸の性病」という本を読んだことだという。江戸時代の遊女たちが、20歳代前半で性病に感染し、なすすべもなくバタバタと死んでいったという事実を知り、この無念を何とかドラマの中でだけでも晴らすことができないか、と考えるうちに、この漫画を描かずにはいられなくなったそうだ。その思いがストーリーの中心にしっかりと流れているので、さまざまな要素をてんこもりにしても、作品が崩れなかったのだろう。
読者として気になったのは、仁が現代に戻っても、江戸時代に留まっても、現代か江戸時代かいずれかのストーリーが宙に浮き、作品として後味の悪さを残すのではないかということだ。しかし、作者はこのジレンマをうまく解決するストーリーを考えていた。おそらく作品を書き始めた時点で、このエンディングを決めていたはずだ。20巻と1巻を読みくらべると、そのことがわかる。
テレビドラマの方も好調だ。のらねこさんが書かれているように(http://noraneko22.blog29.fc2.com/blog-entry-338.html)、第一シリーズは「話しよし、役者よし、ビジュアルよしの三拍子揃った観応えのある作品」であり、最終話では瞬間最高視聴率29.8%を達成する大ヒットとなった。第二シリーズは、今日で第7話。原作の流れ、テイストを活かしつつ、納得のいく変更が加えられている。原作の面白さも、オリジナルストーリーも楽しめる。野風は、原作とは違って、日本で出産するようだ。しかも、来週の第8話では、逆子を生かすために、帝王切開という江戸時代では絶望的な手術を受けるようだ。おそらく命を落とすことになるのではないか。テレビドラマでは、原作にはない、現代の仁の恋人(未来)が登場している。テレビドラマ第一話は見ていないのだが、現代の仁が手術ミスから、恋人の未来を植物人間にしてしまったらしい。おそらく、江戸時代の仁が野風の子を救うことで歴史が変わり、現代の恋人(未来)は消えてしまうのだろう。そして、原作のエンディングどおり、最後にはあの人物が登場するに違いない(ただし、名前はマリー・ルロンではなく、ミキ・ルロンではないか)。
野風を演じる中谷美紀、龍馬を演じる内野聖陽がすばらしい。この二人の演技を見るだけでも満足がいく(存在感では、主役の大沢たかおを食っている)。中谷美紀については、「ゼロの焦点」での鬼気迫る演技が強烈な印象として記憶に残っている。演技派女優ナンバーワンだ。今回は、未来の仁と結ばれると信じて、わが身を賭して子を産む気高い野風を、圧倒的な存在感で演じている。内野龍馬は、これまでに観た龍馬の中で、いちばん龍馬らしい。未来への熱情を心にたぎらせながら、屈託のない破顔で、豪快に行動する龍馬を見事に演じている。先週は、目的のために手段を選ばず、ダークサイドに落ちかかった龍馬を巧みに演じた。一見屈託のない笑いに、すごみのある影を宿したところはお見事。咲役の綾瀬はるかも、いままで観た中でいちばん魅力的だ。この人はワンパターンの演技しかできない役者だと思っていたのだが、彼女なりに演技に厚みと幅が出てきた。野風を思って仁のプロポーズを退けながら、懸命に医術に励むまっすぐな咲を、好演している。