「トイストーリー3」と「借りぐらしのアリエッティ」

同じアニメ映画だが、この2作はきわめて異質だ。両者を比べるのは、「スターウォーズ」と「寅さん」を比べるようなものだろう。人気投票をすれば「トイストーリー3」により多くの票が集まるに違いないが、「借りぐらしのアリエッティ」には「トイストーリー3」にはない味わいがある。
トイストーリー3」は、手に汗を握るスリルを味わい、最後に心から「面白かった!」と思える映画だ。物語は、オモチャたちを長年愛してくれたアンディが大学に進学することになり、オモチャたちと別れるシーンから始まる。屋根裏部屋にしまわれるはずが、手違いでゴミ収集車に放り込まれたオモチャたち。その後は、これでもか、これでもかと、オモチャたちにピンチがおそいかかる。力をあわせてそれらを乗り切るのだが、最後に絶体絶命のピンチが訪れる。このピンチからどうやれば脱出できるのか、まったく想像できなかった。救世主を観客の視野から消しさったマジックはお見事。最後にアンディが、オモチャたちのリーダーであるウッディに、「ウッディは決して仲間を見捨てないんだ」と言い、自分の行為の浅はかさに気づくシーンは秀逸。オモチャたちの表情もすばらしい。しばらく前のCGアニメの「のっぺり感」がまったくない。娯楽作品としてきわめて完成度が高く、これといった欠点が思い当たらない。
借りぐらしのアリエッティ」は、美しい映像に心を洗われ、最後にほんわりと温かい気持ちを味わえる映画だ。物語は、小人のアリエッティとその両親が暮らす家に、心臓の病を患った翔が療養に来るシーンから始まる。アリエッティが翔に姿を見られたことで、アリエッティたちの生活に危機が訪れる。アリエッティと翔の未熟さが事態を悪化させ、二人は力をあわせて危機を収拾しようとする。別れのシーンで、翔がアリエッティに語る言葉には、翔がはじめて抱いた生への希望がこめられている。ハヤオ作品と違ってパワー全開ではなく、やや抑制気味の描写を通じて、情感のこもったメッセージが伝わってきた。また、最近のハヤオ作品と違って、物語がしっかりと完結している。全編を通じて、小人のアリエッティから見る世界の描写がすばらしい。身近な世界がまったく違った風景に見える。やはり作品としてきわめて完成度が高い。あえて言えば、ツツジの花、シソやツユクサの花、オオハンゴンソウと思われる黄色いキク科の花が一緒に咲いている光景には違和感を感じたが、そんなことを気にするのは植物学者くらいのものだろう。
トイストーリー3」を先に見たので、「借りぐらしのアリエッティ」には正直なところまったく期待しなかった。しかし、予想を大きくこえる出来栄えの作品であり、満たされた気持で劇場を後にした。ジブリに新たな若い監督が誕生したことを喜びたい。