京大野生動物研究センター(補足)

先日の記事に対して、「East_Scrofaの日記」さんが次のコメントを寄せられた。

Y氏いわく、
京大の基礎研究の真髄は、「おもろい」研究を追及する点だと思う。流行を追う研究は、「おもろない」のである。
最近の野生動物研究の流行はいわゆる獣害対策なり野生動物の管理(絶滅危惧種ではなくむしろ増えすぎた種が主)だから、この流行に対する批判なんだろう。

このコメントは、まったくの誤解なので、訂正しておきたい。もちろん、誤解を与える記事を書いた責任は私にある。
先日の私の記事は、野生動物の管理に関する研究を批判したものではない。私は、野生動物管理の研究が「流行」だとは思っていなかったので、「East_Scrofaの日記」さんのコメントには意表をつかれた。
私自身、屋久島でのシカ問題に深く関わっており、自分で7kgのバッテリーをかついで夜の山道を歩いてシカの調査をしたこともある。このような研究は、「おもろい」かどうかは別として、やる意義が明白である。少なくとも生態学は、このような生態系・生物多様性の変化に関する研究を避けては通れないと思う。いくら「おもろい」研究をやりたいと思っていても、調査地の環境が劣化したり、研究対象の生物が絶滅したりすれば、研究自体が成り立たない。また、研究対象の生物が増えることで、他の生物や生態系に大きな変化が生じている場合、それを無視して研究を続けるのは困難だろう。
私にとってこれらの点は自明なので、先日の記事ではあらためて書くことはしなかった。
京大野生動物研究センターは、以下の「憲章」を制定している。

京都大学野生動物研究センターは、野生動物に関する教育研究をおこない、地球社会の調和ある共存に貢献することを目的とする。その具体的な課題は次の3点に要約される。第1に、絶滅の危惧される野生動物を対象とした基礎研究を通じて、その自然の生息地でのくらしを守り、飼育下での健康と長寿をはかるとともに、人間の本性についての理解を深める研究をおこなう。第2に、フィールドワークとライフサイエンス等の多様な研究を統合して新たな学問領域を創生し、人間とそれ以外の生命の共生のための国際的研究を推進する。第3に、地域動物園や水族館等との協力により、実感を基盤とした環境教育を通じて、人間を含めた自然のあり方についての深い理解を次世代に伝える。

このように、センターの憲章では、「絶滅の危惧される野生動物を対象」とすることが第一の目的としてうたわれている。私は連携協議員という立場でこのセンターに関わることになったので、連携協議会では第一の点に関連して、IUCNとの連携強化を念頭に置いてほしいと発言した。このセンターの特色は、動物園と連携する点にある。これは日本の研究センターとしては画期的なことであり、私はこの連携がうまく機能して、発展することを心から願っている。「匂い」の話に関連して、動物園で飼育されている動物の健康を考えるうえで、「匂い」の管理という視点も必要ではないかという問題提起をした。
動物園と連携して、ゾウやキリンのようなカリスマ的な動物を研究対象とする場合、興味本位の研究だけでは済まないはずだ。「基礎研究」といっても、実学的側面との連携が求められる。それを承知のうえで、動物園との連携にふみきったこのセンターのチャレンジを私はとても意義あることだと思うし、その将来に期待している。
そのうえでなお、「おもろい」研究を追求してほしいというのが、私の願いである。
流行を追う研究は、「おもろない」のである・・・こう断言してしまったことが、適切ではなかったのかもしれない。そもそも何をもって「流行を追う」というかは主観的な判断の問題だし、「おもろい」かどうかの基準も人それぞれだろう。そのような多様性を尊重したうえで、そのうえでなお、めいめいが「おもろい」研究を追及すれば良いと思う。