モニタリングサイト1000

地球環境の変化と言えば、地球温暖化がとりあげられることが多い。もちろん、地球温暖化は、重要な問題である。しかし、私たちの身の回りでは、地球温暖化よりももっと激しい速度で、環境が変化している。
19世紀後半から現在までの地球規模での平均気温の増加は、0.6 ± 0.2℃だと言われている。これに対して、東京の平均気温は、過去100年間に2度も増加している。この数字を比較するだけでも、都市化などの局地的な環境変化の規模が、地球規模の環境変化の規模よりずっと大きいことがわかるだろう。
変化しているのは、気温だけではない。さまざまな生物を野外で見ていると、その変化の激しさに驚かされる。いつの間にか、メダカもドジョウも、ゲンゴロウもミズスマシも、滅多に見られない生き物になってしまった。私が編集にかかわった環境庁(当時)の植物レッドデータブック(2000)は、日本の野生植物の約24%が絶滅危惧種であることを明らかにした。この中には、秋の七草に数えられえるキキョウとフジバカマも含まれている。現在のペースで減少が続けば、100年後には「秋の七草」が、「秋の五草」になってしまうだろう。
減る生物がある一方で、増える生物もある。過去10年あまりの間に、シカは全国各地で急増し、森林の林床植生に劇的な変化をもたらしている。セイヨウオオマルハナバチは、あっという間に、北海道各地で野生化し、高山のお花畑にまで進入している。ノネコはやんばるの森に進入し、また、あまり知られていないが、屋久島の標高1000m付近のスギ原生林にも姿をあらわしている。
このような変化は、全国各地で、さまざまな生態系で進行中である。しかし実は、その変化をモニタリングする体制は、きわめて不十分である。環境省が2003年に、全国1000地点にモニタリングサイトを設けるという計画を発表したときには、大いに期待した。
しかし、その後、この計画がどこでどのように検討され、どのように進んでいるのか、ちっとも伝わってこない。環境省野生生物課の方には、レッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種の分布が集中している場所を、モニタリングサイトに選んでもらえないか、というお願いをしたことがあるが、モニタリングサイトの事業の方は担当部署が違うようであった。
担当の部署に問い合わせれば事情はわかるのだろうが、私のほうは、植物レッドデータブックの見直し作業で手一杯なので、それ以上調べずに、今日に至っている。
※ここまで書いて、植物目録の改訂作業も未完であることを思い出した。予定では、夏休みには決着をつけるはずだった。いかん。
その「モニタリングサイト1000」事業を紹介したパンフレットが公表された。環境省生物多様性センターのウェブサイトから、パンフレットのpdfファイルをダウンロードできる。
しかし、このパンフを見ても、どこでどのようなモニタリングが実施されているか、あるいはされようとしているか、具体的にはわからない(例としてあげられているのは3つのサイトだけ)。8ページ目の地図を見ると、福岡県にもずいぶんモニタリングサイトが設定されているようだ。私のところに相談に来ていただく必要はないが(というより、他の仕事で手一杯なので、なにとぞ相談に来ていただきたくないのだが)、どこでどんな調査が計画されているかがわからないのは不便だ。
類似の調査は、「モニタリングサイト1000」事業以外でも、たくさん計画され、実施されている。お互いに連絡・調整をせずに、類似の調査をするのは、もったいない。
環境省生物多様性センターのウェブサイトで、モニタリングサイトの一覧とその連絡先を公表してほしいものだ。