レブンアツモリソウの共生菌と送粉昆虫

レブンアツモリソウ保全の研究プロジェクトでは、レブンアツモリソウの共生菌に関しても、確実に研究が進んでいる。このテーマに関しては、すでに3編の論文が公表されており、たとえば次の論文では、単離された菌の接種によって実際に種子の発芽が促進されることが確認されている。
Shimura H & Koda Y. 2005. Enhanced symbiotic seed germination of Cypripedium macranthos var. rebunense following inoculation after cold treatment. Physiologia Plantarum 123: 281-287.
菌の正体に関しては、未発表の研究成果なので、私がここで詳しく紹介するのは適切ではない。下記の論文が公表されるのを待ちたい。
Shimura et al. In review. Identification and characterization of symbiotic fungi that facilitate seed germination of Cyprimedium macranthos var. rebunense, a symbol for threatened-plant conservation in Japan.
野外における共生菌の分布に関しても、興味深い事実が明らかにされており、これらの事実は保全を考えるうえでも重要な知見である。
送粉昆虫に関しても、昨年の観察で新しい知見が得られた。送粉昆虫の組成や量、結果率への貢献に関しては、研究プロジェクトに予算がつく前の2001年以来、7年間のデータが蓄積された。7年目で新たな事実が得られたことは、この種の研究において長期観察がいかに重要かを示している。
気がかりなのは、以前にも書いたように、マルハナバチ類の外来種への依存度が高いことである。アカツメクサシロツメクサコンフリーなどがマルハナバチ類の重要な蜜源植物となっており、これらの蜜源植物によって増えたマルハナバチ類が、蜜を持たないレブンアツモリソウの送粉昆虫となっている。外来種は、ボランティアによって駆除されているそうだが、アカツメクサシロツメクサなどを大幅に減らすことがレブンアツモリソウの個体群動態に与える効果について、できるだけ正確な評価をしておく必要がある。すでに得られている個体群推移行列のデータを使えば、ある程度の評価は可能である。私の予想では、結果率が減ることには、開花個体の死亡率を下げ、芽生えの密度低下を通じて芽生えの死亡率を下げる効果も期待できるので、単純にレブンアツモリソウの増加率を下げる効果ばかりではないはずだ。結果率の減少というコストと、上記のようなベネフィットのバランスを見極める必要がある。