3年目のジンリョウユリ調査


大学院生のYさん、卒研生のSさんと徳島県那賀町に4日間滞在し、ジンリョウユリの送粉生態に関する調査をした。早いもので3年目になる。ジンリョウユリには柱頭とやくがほぼ接していて、いかにも自家受粉しそうな花から、柱頭とやくが大きく離れていて、もっぱら他家受粉していると思われる花まで、変異が大きい。より自殖的な個体とより他殖的な個体の変異が保たれているようであり、繁殖システムの進化の研究材料として興味深い。もちろん、徳島県のごく限られた場所に高々1000個体程度が残っているだけの絶滅危惧種であり、保全生態学の研究対象としても重要である。
昨年の調査のときまでは、柱頭とやくがほぼ接している個体では、風や雨などで自家受粉が起きるものと考えていた。しかし、今年よく観察してみると、柱頭とやくがほぼ接している個体でも、写真のように、柱頭にまったく花粉がついていない個体がしばしばある。どうやら、ハナバチなどの訪問がないかぎり、花粉は柱頭につかないようだ。
また、Yさんの研究から、柱頭とやくの距離が短いほど、ハナバチなどによる「多量受粉」の頻度が高いことがわかった。したがって、柱頭とやくの距離が短いほど、他家花粉の持込みが増えるものと予想される。
Yさん、Sさんへの講義をかねて、このような条件を考慮したESSモデルを計算してみた。柱頭とやくの距離の距離に比例して、自家花粉の持ち込みも他家花粉の持込みも減るという仮定で計算すると、両者の減少の比例係数の大小が、ESSの帰結に大きく影響する。考えてみれば当たり前だが、ちょっとした発見である。柱頭とやくの距離が長いほど他家花粉の割合が増えるというベネフィットがある一方で、花粉がつく確率が減ってしまうというコストがある、という関係がありそうだ。
一方で、保全にむけても重要な手がかりが得られた。今年、もういちど現地に足を運んで、保全に向けての道筋を探りたい。
昨日と今日は小雨に降られたが、訪花昆虫はしっかり活動して、ジンリョウユリの柱頭に花粉をつけていた。トラマルハナバチの訪花を目撃した。夕方に、花粉を目当てに訪問するようだ。
昼に調査地を発ち、名古屋に移動した。地下足袋が雨に濡れ、泥まみれになったので、ホテルで地下足袋を洗濯。明日の午前中はCOP10事務局に出向き、午後は名古屋大学でJBONやアジア会合などについての説明をする。