卒業論文の書き方(今年の指導経験にもとづくメモ)

昨日は、修論発表会(提出は24日)+卒論の提出締め切り日だった。この一週間あまりは、最低限の部門長業務・年度末業務をこなしつつ、修論・卒論指導に明け暮れた。大学教員としてはまっとうな毎日だが、卒論の原稿を読んで作文指導をするのは、なかなか大変な仕事だ。毎年のことながら、卒論生の多くは、最初はまともな文章が書けない。提出された原稿を読むと、短期間でよくぞここまで改善されたと嬉しくなる。しかし、そこに至るプロセスについては、つい「修羅場」という表現を使ってみたくなる。
今年の卒論生に書き送ったコメントは、来年度の卒論生にも参考になりそうである。メールやワード文書から、ポイントを転記しておこう。
卒論を書く上で注意してほしいポイントを3つにまとめてみた。

(1) 具体的に書く
最初の卒論原稿は、説明不足という場合が多い。「材料と方法」「結果」はやったこと、わかったことを書けば良いだけなのだが、これが意外にできない。

例:ポリネーターを目毎に分け、さらに訪問時間を昼・夜とに分けた表をFig.5で示す。さらに、・・・をFig.6a-gで示す。

これでおしまい。「おいおい、Fig.5, Fig.6a-gのどこをどう見れば、何がわかるのかを書いてくれよ〜」と心の中で叫びつつ、以下の作文をして、**の数字を埋めるように、またこの例にならって具体的に書くように、コメントした。

【Lepidopteraが訪花する割合が8割以上の2種うち、トベラPittosporumでは夜行性Lepidopteraの訪花割合が**、昼行性Lepidopteraの訪花割合が**、クサギClerodendron,では夜行性Lepidopteraの訪花割合が**、昼行性Lepidopteraの訪花割合が**だった(Fig. 6a)。また、・・・】

イントロダクションの説明不足については、いつも次の「決めセリフ」を返す。

「少し知識のある中学生なら理解できる程度に、具体的でわかりやすい説明を心がけてください。」

「中学生」というのがポイントで、「高校生なら理解できる程度」というリクエストをしても、なかなか改善されないことが多い。「少し知識のある中学生なら理解できる程度」と要求すると、さすがに説明の量が増え、改善が進む。増えすぎた(不必要な)説明は短縮したり削ったりすれば良い。説明不足を教員が加筆することは、できるだけ避けたいのだ。ただし、教員が加筆して具体例を示すことも教育的なので、状況に応じてかなり加筆している。
「具体的でわかりやすい説明」というだけではなかなかわかってもらえないので、以下のように個々の文章について、具体性を要求する。

【たとえば、「花とポリネーター(送粉者)の関係はよく研究されてきた」と冒頭に書かれていますが、「花とポリネーター(送粉者)の関係」とは何のことなのか、具体的に特定しないと、多くの読者には意味がつたわりません。
「よく研究されてきた」・・・どのように研究されてきたのか、具体的に書いてください。
「狭いグループ間の」「より広いスケール」・・・よく意味がわかりません。もっと具体的に、正確に書いてください。
「昆虫と花の関係に注目していた」・・・昆虫と花のどのような関係に注目してきたのか?
「ポリネーションを考える上で」・・・ポリネーションの何を考える上で? 課題が何かが具体的にわかるように書いてください。】

(2) 結論をはっきりさせる。
イントロダクションを書く前に、結論を決めるべきである。しかし、これがなかなかできない。その理由は、研究史のレビューができていないためであることが多い。このため、教員が議論に加わって、結論をしぼりこむ必要がある。K君の卒論の場合、考察の最初の文章を以下のように書くことにして、3つの結論を議論しながらしぼりこんだ。この作業が終わると、卒論指導もずっと楽になる。(※年によっては、明快な結論が導けないことがある。そのときは、教員も卒論生もつらい。そうならないように計画するのだが、研究に運はつきものだ。結果としてうまくいかないこともある。)

考察
本研究は、昼と夜の昆虫の訪花頻度を、季節を通じて定量的に観察したはじめての報告である。この観察では、デジタルカメラによるインターバル撮影という共通の方法を、昼夜を問わずに用いた。その結果、観察した各樹木種におけるさまざまな目の昆虫の相対的な訪花頻度を、昼夜を通じて比較することが可能になった。この比較から得られた主要な結論は、以下の3つに要約される。第一に、・・・。第二に、・・・。第三に、・・・。


(3) 研究史を書く
これが一番難しい。多くの卒論生は、執筆をはじめる時点で論文の読み込みが足りず、そのために以下のようなコメントに自力で応えきれない。

コメント:以上のように整理した3つの結論について、以下の3つのセクションをたてて考察を書くのが良い。各セクションでは、各結論に関係する先行研究を要約し、今回の結論にどういう意義があるか(従来の結論を覆したのか、補強したのか、従来とは違う視点を提示したのか、など)について書く。
夜の訪花昆虫の一般性
ポリネーションネットワークのモジュール性
夜行性のLepidopteraとColeopteraの役割

その場合(=ほとんどの場合)、以下のようにアドバイスしている。

【(最初のうちは)関連する先行研究をうまく要約している論文をひとつかふたつ読み、そこに書かれている内容をまねて書くのが良い。】