キスゲ属の花に含まれる睡眠物質

キスゲ属の花には睡眠を誘導したり、忘却を促進したりする物質があるらしいことが経験的には知られていた。万葉集では「ワスレグサ」という名前で歌われており、恋の苦しみを忘れるために花を下紐につけるならわしがあったことがうかがえる。中国でもこの花を見て憂いを忘れるという言い伝えがある。実際に花を炒めて食べてみると、集中力が低下する。この効果は、私の人体実験で証明ずみである。
その睡眠誘導物質が特定されたというニュースにたどりついた。
卒研生のテーマを考えるために、「アキノワスレグサ」で画像検索をかけたところ、「グッスリン」という健康食品の販売サイトがヒットした。
なかなか面白いネーミングではないかと思って説明を読むと、次の解説が目にとまった。

睡眠改善効果があるといわれていたユリ科の一種クヮンソウ(和名・アキノワスレグサ)の睡眠調整特定物質が、このほど解明された。大阪バイオサイエンス研究所と同志社女子大薬学部が共同研究を進め、25日に那覇市の産業支援センターで開かれる「睡眠フォーラム」で成果を報告する。

そこで、「睡眠フォーラム」&「那覇市」で検索をかけたら、次のサイトがヒットした。

http://asiabiz.jp/newsasiabiz/2007/08/post_1988.html

研究しているのは、以下のお二人と判明。

   裏出 良博氏((財)大阪バイオサイエンス研究所・研究部長)
   小西 天ニ氏(同志社女子大学・薬学部教授)

裏出さんは、睡眠研究の分野では大家である。

「裏出良博」&「アキノワスレグサ」で検索した結果、以下のログ(沖縄タイムスの記事)にたどりつき、物質名が判明した。

ユリ科の植物クヮンソウ(和名・アキノワスレグサ)の研究を進めている大阪バイオサイエンス研究所の裏出良博研究部長と同志社女子大学の小西天二教授らは23日、県庁で記者会見し、クヮンソウからアミノ酸の一種オキシピナタニンを抽出したと発表した。鎮静、睡眠効果を含む可能性があるとし、関連製品を扱うクレイ沖縄(那覇市、渡嘉敷朝子社長)と3者で特許を出願中という。マウスなど動物への投与実験で行動の変化を測定。オキシピナタニンの粉末を水に溶かして与え約12時間ほど観察した結果、投与から約6時間は行動量が「4割程度に減少した」という。裏出部長は理由は不明としながら「動物の脳波を変え、意識を落とすのは非常に珍しい」とした。睡眠効果について小西教授は「(クヮンソウに含まれる)複数の物質が相乗効果を出している可能性もある」と指摘した。「睡眠フォーラム」(主催・同実行委員会、共催・沖縄タイムス社、クレイ沖縄)が25日午後1時から、那覇市の沖縄産業支援センターで開かれる。「睡眠とクヮンソウの沖縄振興の可能性」と題し、クヮンソウに関する研究成果などを報告する。参加無料。申し込みや問い合わせはクレイ沖縄、電話098(853)9090。from 沖縄タイムス

沖縄タイムスのウェブサイトではすでに消されている記事のログである。

次に「オキシピナタニン」で検索すると、次のサイトがヒットした。

http://allabout.co.jp/gs/goodsleep/closeup/CU20070831A/index3.htm

おそらく、花の食害者に対する防御物質として進化したものと思われる。物質が特定されたことで、進化的観点からの研究を進める可能性もひろがった。

http://okinawatrd.en.ecplaza.net/2.asp

に「グッスリン」が英文で紹介されており、「オキシピナタニン」の綴りはOXYPINNATANINEと判明。

OXYPINNATANINEで検索すると、下記の文献がヒットした。

Title: NOVEL 2,5-DIHYDROFURYL-GAMMA-LACTAM DERIVATIVES FROM HEMEROCALLIS-FULVA L VAR KWANZO REGEL
Author(s): INOUE, T; IWAGOE, K; KONISHI, T, et al.
Source: CHEMICAL & PHARMACEUTICAL BULLETIN Volume: 38 Issue: 11 Pages: 3187-3189 Published: NOV 1990

物質自体はすでに知られていたものだった。

最初に同定されたのはミツバウツギ科のStaphylea pinnataから。それで、pinnataninと命名されたわけだ。

  • Glove et al. (1973) Pinnatanine and oxypinnatanine, novel amino acid amides from Staphylea pinnata L. Tetrahedron Volume 29, Issue 18, Pages 2715-2719.

単離されたのは種子からなので、やはり食害防御物質だと思う。非タンパク性アミノ酸だし。毎日食べ続けて大丈夫かどうかは、ちゃんと調べたほうが良さそうだ。