アユ放流は効果があるか?

2月21日には、河川生態学学術研究会北川研究グループ、国土交通省九州地方整備局、宮崎県主催による「河川生態学学術研究会北川研究グループ発表会」で、「北川河川改修事業地域における 植物種と植生の保全・復元・管理」と題して20分間の報告をした。昨年にとったデータの入力ができていなくて、アブダビまで野帳を持っていったのだが、やはり進まず、20日の夜から入力を始めるという体たらく。準備が終わったのは午前3時だった。2001年からのデータの蓄積があるので、昨年分のデータを加えれば話はできるのだが、もうすこし時間をかけて解析したいものだ。他のグループメンバーと違って、このテーマに関しては、研究室で研究しているのは私だけである。自分で調査に出かけて、自分でデータをとって、自分で入力をして、自分で解析をして、自分で発表するのは潔くはあるが、責任を十分に果たせているかと言われると、やや自信がない。次のフェーズでは五ヶ瀬川との比較も課題になるので、ますます一人では手に負えない。研究室外で体制を組むことを真剣に考える時期だと感じる。
さて、その研究会で、高橋勇夫さんによる大変面白い講演を聞かせていただいた。早速、下記の本を注文した。

ここまでわかったアユの本
変化する川と鮎、天然アユはどこにいる?
高橋勇夫+東 健作[著]
ISBN4-8067-1323-6
築地書館

アユの放流は全国で行なわれており、放流に全国で費やされる予算額は50億円にのぼるそうだ。ところが、高橋さんがパワーポイントで示されたグラフによれば、高知県では、毎年放流量を増やしているにもかかわらず、漁獲量は減り続けている。トレンドがまったく逆で、見かけ上は負の相関があると言っても良い結果である。なんともやるせない話であり、このデータだけでも、放流は無駄であるといわざるを得ない。他の地域でも、漁獲量の変動は、放流量とは関係がないという結果が出ているそうだ。
では、何が漁獲量を減らしているかというと、高知県では、冷水病という病気の影響があげられるという。しかも、この冷水病は、もともとは琵琶湖のアユに特徴的に見られた病気であり、琵琶湖のアユを全国に放流している結果として、全国で蔓延しているのだという。つまり、アユの放流は、漁獲量を減らす原因となる病原体を一緒に放流しているというのである。これには驚いた。
さらに、高知県でのアユ不漁の背景には、天然アユの遡上数が減少しているという問題がある。この原因を探ってみると、アユの孵化日が遅れていることがわかった。耳石の輪紋により遡上アユの孵化日の分布を推定した結果、1986年には主として11月上〜中旬に孵化したアユが遡上していたが、1996年には主として12月下旬に孵化したアユが遡上していた。この遅れは、11月産まれの稚魚が選択的に死んでいる結果だという。この選択的死亡の原因は、11月の海水温の増加だと考えられる。つまり、温暖化による海水温の増加が、アユの不漁の背景にあるというのである。
とはいえ、できる対策はある。高知県物部川では、漁協が放流から方針転換をして、産卵場の造成や産卵期の保護に力を入れた。アユは石の裏側に卵を産みつけるのだが、河川環境の変化により、アユが動かせる石が減っていた。そこで、浮石の多い河床を2003年に造成したところ、2004年にはわずか14kmの河川に30万匹のアユが遡上した。漁協の対策は大成功に終わり、めでたし、めでたし、・・・とはいかないのがこの話の悲しいところである。
一難さってまた一難。台風による増水への対応として、上流のダムが濁水を放流し、アユは壊滅的被害を受けてしまった。
それでも新たな希望が生まれている。水田からの濁流が河をよごすため、ともすれば対立しがちな農協と漁協が協力し、「物部川漁協推薦天然アユ100%物部川清流米」というお米のブランドを作って売り出したそうだ。これは妙案だ。ダムを管轄する国土交通省は、このお米の普及に協力してはどうだろう。
そのほか、産卵中のメスに群がるオスはしばしば卵を食べているとか、アユは珪藻だけでなくシアノバクテリアを積極的に食べて、シアノバクテリア由来のゼアキサンチンを体色素に使っているなど、いろいろと面白い話を聞かせていただいた。