ネアンデルタール人のゲノム研究

roadman2005さんから、「ネアンデルタール人ゲノム配列に混入したヒト配列に関する記事」の連絡をいただいた。
2006年11月にNatureとScienceにあいついで発表されたネアンデルタール人ゲノム配列の論文に関して再検討した論文(Inconsistencies in Neanderthal genomic DNA sequences Wall JD, Kim SK PLoS Genetics, e175.eor doi:10.1371/journal.pgen.0030175.eor)について教えていただいた。この論文によれば、ヒトとネアンデルタールの交雑を主張したGreenらのデータは、ヒトのDNAがコンタミした結果である可能性が高く、ヒトとネアンデルタールの交雑はなかったと主張したNoonanらのデータのほうが信頼がおけるという。
Noonanらの研究については、下記の総説で批判的にとりあげられていたので、知っていた。

  • Garrigan & Kingan (2007) Archaic human admixture:A view from the genome. Current Anthropology 48: 895-902.

しかし、この総説にはなぜか、Greenらの論文は引用されていない。著者たちの主張(交雑があった)に有利な証拠なのに引用していないということは、この総説が書かれた時点ですでにデータの信憑性に疑いがもたれていたのかもしれない。
Garrigan & Kinganは、ゲノム配列のデータから交雑がなかったと結論することの困難さについて、妥当な見解を述べていると思う。彼らは、イヌとの交雑によって絶滅状態にいたったエチオピアオオカミの例をあげて、genetic swampingが起きた場合には、飲み込まれた側の種の遺伝情報はほとんど失われてしまうと主張している。とくに、ヒトが有利な性質を獲得し、人口増加を続けている状態では、かりに50%交雑を初期状態としてシミュレーションをしても、雑種は残らないと主張している。図示されているシミュレーションの詳細はよくわからないので、この結論については少し慎重に判断するほうが良いとは思うが、定性的には妥当な結論だと思う。つまり、 swamping の効果を考えるなら、中立的な遺伝マーカーで交雑の有無を判定することは困難だろう。ミクロセファリンのように正の淘汰を受けて増えたと考えられる遺伝子の証拠は、より信頼が置ける。この点で、現在得られている証拠から考えると、ネアンデルタールとヒトの交雑はあった可能性のほうが高いように思う。
もちろん、証拠はまだ不十分であり、結論についてはこれからの研究に待たねばならない。
※この時期は、2日ほど出張しただけで、緊急の仕事が山積。かちかち山状態。さぁ、泥舟から水を汲み出さねば。なお、英語ではこのような状態を、I am swamped という。底なし沼に沈んでいく感じ・・・。すわんぷ〜。
※2月8日追記:数日分の寝不足を解消したら、元気になりました。寝不足はいけません。