アサザ・サクラソウ・シバナ・サギソウが準絶滅危惧にー植物レッドリスト見直し結果公表

 環境省は、「哺乳類、汽水・淡水魚類、昆虫類、貝類、植物I及び植物IIのレッドリストの見直しについて」の結果を公表した。
 植物I(維管束植物)に関しては、日本植物分類学会が事業委託を受け、500名以上の調査員の協力を得て、各種・各メッシュごとに前回の個体数ランクからの変化を調べた。この結果にもとづいて絶滅リスクを評価したので、前回の植物レッドリストよりもさらに信頼性の高い評価ができたと思う。
 のべ 10,226メッシュのうち、1,116メッシュでは個体数ランク(桁)がアップし、1,624メッシュではダウンした。前回(1994-1995)の調査時以後に絶滅が確認されたメッシュが403あり、この数は、前回絶滅と判定されたがその後再発見されたメッシュ数187を上回っている。これらの数字から、日本の野生植物が決定論的減少傾向にあることは明らかである。
 大部分の絶滅危惧種・亜種・変種について、個体数ランクの推移行列が得られたので、これらの行列データをもとに、確率論的シミュレーションによって将来の絶滅リスクを評価した。今回の見直しは、このような評価にもとづいている。
 絶滅リスク評価のためのシミュレーションの方法や、結果の詳細については、現在論文原稿を準備中である。大部分の絶滅危惧種を対象に時系列データを集め、減少傾向を定量的に評価した調査としては、世界ではじめてと言って良い。過去10年間の減少傾向が今後も続けば、100年後には553分類群(全体の8%)が日本から絶滅すると予測される。この数字は、野生植物の大量絶滅の危機が、単なる警鐘ではなく、現実的なリスクであることを示している。これらの結果については、英文論文で国際的に発表する。おそらく大きな反響があるだろう。
 以下に、環境省から発表された見直し結果の要点を転記しておく。この要約は、日本植物分類学会絶滅危惧植物専門委員会での議論を経て作成されたものである。
 以下に説明されているように、アサザサクラソウ、シバナ、サギソウなどは準絶滅危惧(NT)と判定された。いずれも野生植物保全のシンボル的存在であり、これらをNTにランクダウンすることの是非に関しては、日本植物分類学会絶滅危惧植物専門委員会でずいぶん議論をした。
 これらの種に関しては、過去10年間は保全努力が功を奏して、さほど減っていない。新たに発見された自生地もあり、これらの自生地でも保全努力が行なわれている場合が多い。このような努力の結果として、絶滅リスクが下がったのである。もしランクダウンすれば、保全努力が弱まり、再び絶滅リスクがあがる可能性がある。これを防ぐためには、過去10年間ではなく、もっと前からの減少傾向を評価すべきではないか。
 しかし、今回の見直し結果の特徴は、過去10年間の変化を定量的に調査した結果にもとづいている点にある。「もっと前からの減少傾向」については、より不正確なデータしかない。一方で、過去10年間により顕著に、あるいはより激しく減少している種がある。このため、アサザサクラソウ、シバナ、サギソウなどをNTにランクダウンしてもなお、絶滅危惧種の総数は微増となる。この結果の説得力は、ひとえに評価の客観性にもとづくものである。
 結局、植物レッドリストの役割は、できるだけ客観的に、同じ基準で絶滅リスクを評価し、ランクを決めることだろうという意見で合意を見た。その結果、アサザサクラソウ、シバナ、サギソウなどはNTにランクダウンされた。しかし、この結果は保全努力に依存している。そこで、環境省からの発表では、「これらの種の野生個体群は保全対策の下で維持されている場合が多く、それらの保全対策の継続が必要である」と注記し、記者発表時の説明でもこの点を強調することとした。

  • [1]絶滅のおそれのある種の総数は前回の平成9年公表(平成12年一部変更)のレッドリストでは1665種であったが、今回は1690種となり、総数では大きな変化がなかった。改訂前リストで絶滅のおそれのある種とされていたもののうち、171種は準絶滅危惧、情報不足又はランク外と判定された。逆に、新たにランク外、情報不足又は準絶滅危惧から今回絶滅のおそれがあると判定した種数は210種あった。
  • [2]個別の種でみると絶滅危惧IA類及び絶滅危惧IB類の種は、ランクが下がる傾向、絶滅危惧II類の種はランクが上がる傾向が見られた。また、前回に情報不足だった種や新たに調査対象とした追加種の多くは絶滅のおそれがある種だった。
  • [3]保全のための努力が払われた結果、絶滅の危険性が下がり、ランクが下がった種があった。例えば、アサザサクラソウ、シバナ、サギソウなどは準絶滅危惧と判定された。これらの種の野生個体群は保全対策の下で維持されている場合が多く、それらの保全対策の継続が必要である。
  • [4]リストから除外される種、ランクが下がる種には比較的広く名前が知られた種が多く、[3]で示したように、保全の努力が進んだこと、とりわけ絶滅危惧種に関する一般の関心が浸透しつつあることが示唆される。一方、調査の精度が上がることによって、新たにリストに掲載される種が見られ、ランクが上がる種もあり、依然として絶滅のおそれのある種に指標される我が国の生物多様性の現状は厳しいと言える。
  • [5]新たに絶滅もしくは野生絶滅と判定された種が22種あった。コバヤシカナワラビ以外は1980年代以前に絶滅したと推定される。絶滅原因は園芸採取、開発が多いが、絶滅原因が不明な種も多い。一方、これまで絶滅種とされていたが、今回、野生個体群が再発見された種が3種あった(リュウキュウヒメハギ、ムジナノカミソリ、オオユリワサビ)。
  • [6]絶滅または未発見しか報告がなく、ほぼ絶滅状態と推定される絶滅危惧IA類の種が19種ある。この内、1990年代以降に既知の個体群が絶滅した種が少なくとも5種ある(ヒメヨウラクヒバ、ヒナカンアオイ、テリハオリヅルスミレ、イナコゴメグサ、オオスズムシラン)。
  • [7]シカの食害により、屋久島の他西日本を中心とした地域で、ヤクシマタニイヌワラビ、キレンゲショウマをはじめとする多くの種が影響を受けていることが明らかになった。
  • [8]フクジュソウ、キスミレ、クロヤツシロランは新たなデータを基に見直した結果、ランク外とした。