ミカワタヌキモのゲノムサイズはシロイヌナズナよりも小さい?

ミカワタヌキモは、絶滅危惧IB類として、環境省レッドデータブックにリストされている絶滅危惧植物である。この植物が、ひょっとすると植物ゲノム研究の新たな材料として、脚光をあびることになるかもしれない。
Greilhuber et al (2006) Smallest Angiosperm Genomes Found in Lentibulariaceae, with Chromosomes of Bacterial Size. Plant Biol . (Stuttg) 8: 770-777.
この論文によれば、タヌキモ科の下記3種は、シロイヌナズナよりもゲノムサイズが小さいそうだ。

  • Genlisea margaretae : 63 Mbp
  • Genlisea aurea : 64 Mbp
  • Utricularia gibba :88 Mbp

Utricularia gibba(オオバナイトタヌキモ)は東南アジアに広く分布する種で、ミカワタヌキモをその亜種Utricularia gibba subsp. exoleta ( R.Br. ) P.Taylorとみなす見解もある。
シロイヌナズナのゲノムサイズは157 Mbpだから、オオバナイトタヌキモのゲノムサイズはその56%である。小さい。どんな遺伝子が失われているのか、大変興味深い。
ちなみに、Genlisea margaretaeはアフリカ産、Genlisea aureaはブラジル産の種である。タヌキモ科では、複数の系統で、しかも世界各地でゲノムサイズの減少が生じているようだ。ゲノムサイズの減少を促した要因が何かも、興味深い問題だ。
タヌキモ科のゲノムサイズを広くスクリーニングすれば、さらにゲノムサイズが小さな種が見つかるかもしれない。
タヌキモは言わずと知れた食虫植物で、その生態・形態がゲノムレベルで研究できるようになれば、いくつもの意外な発見が生まれるだろう。楽しみである。
大学院時代に、タイの農村部のあぜ道で、つる性のタヌキモを見て以来、タヌキモ類の多様性には心を惹かれている。あの、つる性のタヌキモは、今でも絶滅せずに生育しているだろうか。
東南アジアの発展の陰で、多くの湿地性植物が絶滅危惧状態に至っている。タイでは、野生イネすら絶滅寸前だという。このような種の減少が、将来の生物学研究にとって大きな損失であることを示すうえで、タヌキモ類は格好の研究材料かもしれない。