モニタリングサイト1000推進検討会

昨年の8月22日のブログで、モニタリングサイト1000について、「環境省生物多様性センターのウェブサイトで、モニタリングサイトの一覧とその連絡先を公表してほしいものだ」と書いた。「私のところに相談に来ていただく必要はないが(というより、他の仕事で手一杯なので、なにとぞ相談に来ていただきたくないのだが)」とも書いておいたのだが、その願いはかなわず(苦笑)、昨日は東京(自然研)で「モニタリングサイト1000推進検討会」に出席した。この事業が開始されてから5年目になるが、プロジェクト全体の検討会が開催されたのは今回が初めてだそうだ。
生物多様性保全に関連するいろいろな仕事や現場に関わっているため、「モニタリングサイト1000」について尋ねられることがときにあるが、昨年の8月22日の時点では、環境省のウェブサイトを見ても、具体的な情報はほとんど得られなかった。今回、ウェブをチェックしてみると、「モニタリングサイト1000のページ」が開設され、モニタリングサイトの一覧などの具体的な情報が掲載されていた。
ただし、委員のリストは掲載されていない。そこで、昨日の会議の資料の中から、議事次第と委員名簿を私のウェブサイトに置いた。関心のある方は、参照されたい。情報を得たいときに、誰にコンタクトすれば良いかがわかるということは、とても重要だ。会議の資料は可能な限りウェブで公開していただけるようお願いしたので、いずれより詳細な情報が公開されるだろう。
検討会では、せっかく呼んでいただいたので、積極的に発言させていただいた。主な発言内容は以下のとおり(情報公開に関する意見は省略)。

  • モニタリングサイト1000には、国立公園がほとんどカバーされていない。国立公園には自然保護官事務所がある。公園課と連携して、自然保護官事務所で対応可能なモニタリングをしてほしい。たとえば霧島国立公園では、過去10年あまりの間に、えびの高原の湿地性の植物は、シカの摂食によってほぼ壊滅した。せっかく自然保護官事務所がえびの高原内にあるのに、このように変化の激しい場所にモニタリングサイトを設けないのはいかがなものか。
  • 研究者が対応する森林などのコアサイトに関しては、継続的なモニタリングを容易にするインフラ整備をしてほしい。たとえば、無線ランが利用可能になれば、フィールドサーバのような機器を使って、画像を含むデータを自動回収できる。
  • 市民の協力を得てモニタリングを行うサイトでは、保全に対する有効性を具体的に示すことが必要だ。現場では、モニタリング事業だけでなく、少しでも保全に役立つ施策が求められている。その施策を提示せずにモニタリングだけ頼めば、市民の間に不満がたまっていく。また、GPSを支給するなど、現場のモニタリングで役立つ支援策が必要だ。
  • 里地のモニタリングサイトを一般公募するのは大変良いことだと思うが、どのような条件で公募し、どのような基準で選ぶのか、早めにアナウンスをしてほしい。一方で、市民に対しては丁寧な対応が必要なので、いきなり150箇所というのは、やや多すぎないかと危惧している。
  • 「我が国の生態系の状態を長期的かつ定量的にモニタリングし、その異変をいち早く検出し、自然環境保全施策に資する」という上位目標には不満がある。すでに異変は顕在化しており、生物多様性国家戦略でも課題として「3つの危機+地球温暖化」への対応をあげている。これらのすでに顕在化している異変に対する戦略的なモニタリングと、100年間続ける基盤的なモニタリングの二本立てにすべきだ。
  • また、「異変をいち早く検出」することは、方法論的に難しい。たとえば、地球温暖化が合意されたのは最近である。長期的な時系列データがあってはじめて、異変かどうかの判断が可能になる。これからはじめるモニタリング1000の事業では、異変を検出するというよりも、何らかの徴候をもとにリスク評価をするという考え方を採用したほうが良い。
  • 100年間続けるモニタリングでは、調査項目を欲張らずに、同質のデータが確実にとれていくことを保証することが大事だ。

会議後、自然研の方から、「絶滅危惧種のモニタリングをなぜしないのか、という意見を言われませんでしたね」と指摘を受けた。レッドデータブックを担当している野生生物課の方には、「モニタリングサイト1000の事業で絶滅危惧種のモニタリングもとりあげるように言ってほしい」とお願いしたことがある。今でもこの考えに変わりはないのだが、絶滅危惧種のモニタリングに関しては、モニタリングサイトを公開すること自体が、乱獲を招く可能性がある。したがって、監視カメラなどのインフラ整備とセットでないと難しいのである。そこで、「公園課と連携して、自然保護官事務所で対応可能なモニタリングをしてほしい」という発言をした。国立公園内にも多くの絶滅危惧種の自生地があるが、その自生地のモニタリングすら行われていないのが現状なのである。まずはそこから始めるべきだろう。
懇親会の席での会話の中で、「研究者がコーディネータになって、環境省国交省(河川水辺の国勢調査)・農水省などの調査やデータベースを相互に連携させ、ネットワーク化するための、相談の場を持ってはどうか」というアイデアが浮かんだ。たとえば日本生態学会で、「生物多様性データベースWG」(仮称)を設けて、その会議に環境省国交省農水省の担当部署の方や、これらの省から事業委託を受けて調査・研究を担当している自然環境研究センター・リバーフロント整備センター・農村環境整備センターなどの担当者に出席をお願いしてはどうか。分類学関連の他学会にも呼びかけたほうが良いかもしれない。
これはなかなか良いアイデアだ。
こうやって、仕事は増えていく。
私が担当していては進まないので、どなたかにとりまとめ役をお願いする必要がある。