中国からの輸入食品の安全性

数日前の毎日新聞朝刊の3面に、中国からの輸入食品の安全性に関する記事があり、厚生省の抜き取り検査で摘発される違反のうち3割が中国からの輸入食品だと報道されていた。
統計的な知識がない読者がこの記事を読めば、「3割」という数字に強い印象を受けて、「中国からの輸入食品は危ない」と考えてしまうだろう。
しかし、そもそも中国からの輸入件数が全体の3割程度はあるのではないか。もしそうなら、中国からの輸入食品の違反率が特に高いとは言えない。
厚生省の抜き取り検査の結果なら、ウェブで公表されているのではないかと考え、夕食後に調べてみた。資料(平成18年輸入食品監視統計)はすぐに見つかった。
この資料によれば、

  • 届出数量をみると、件数では中国が578,524件(31.1%:届出件数に対する割合)で最も多く、次いでアメリカの196,858件(10.6%)、フランス191,869件(10.3%)、タイ122,043件(6.6%)・・・である。
  • 違反状況を見ると、中国の530件(34.6%:違反件数に対する割合、0.1%:届出件数に対する割合)が最も多く、次いでアメリカ239件(15.6%)、ベトナムの147件(9.6%)、タイ120件(7.8%)、エクアドル69件(4.5%)の順となっている。

予想どおり、中国からの輸入件数は全体の約3割だった(正確には31.1%)。ただし、違反件数に対する割合は、中国が34.6%なので、この数字だけを見ると、違反率がやや高めのように見える。
しかし、検査件数はどうなのだろう。もし中国からの輸入食品の検査率が高ければ、違反が見つかる割合も高くなるはずだ。検査件数の数字も上記の資料で公表されていたので、総検査件数に対する各国の検査件数の割合を計算してみた。すると、中国の割合は45.9%で、ダントツに高い。次いでアメリカの9.1%、タイ8.8%と続く。
中国からの輸入食品は、アメリカからの輸入食品に比べ、届出件数では3倍だが、検査件数では5倍。したがって、アメリカの輸入食品より1.7倍の厳しさでチェックされているのだ。
当然のことながら、違反の割合は、「違反件数÷検査件数」で比較すべきである。この割合は、アメリカ1.3%、タイ0.7%、中国0.6%、フランス0.5%、である。アメリカの違反率がもっとも高い。
上記の資料には、件数の統計のほかに、重量の統計もある。そこで、違反の割合を重量比、つまり「違反重量÷検査重量」で比較してみた。この割合は、アメリカ3.1%、中国0.37%、タイ0.36%、フランス0.06%、である。
結論:アメリカ合衆国からの輸入食品の違反率がもっとも高い。中国やタイに比べ、件数で2倍、重量で8-9倍の違反をしている。もちろん、中国やタイにも、改善を求めるべきだが、もっとも厳しく注文をつけなければいけない国は、アメリカ合衆国である。
細かな内訳も上記の資料にあるので、興味のある方は参照されたい。また、輸入食品監視業務ホームページには、各種関連統計が公表されている。
中国からの輸入食品でも、違反ゼロの品目がある。たとえば、とうもろこしや大豆は違反ゼロ。一方、アメリカからの輸入とうもろこしの違反割合は6.2%、アメリカからの輸入大豆の違反割合は0.6%である。
公平のために、反対の例もあげておく。アブラナ科野菜では、中国の違反割合は0.2%、アメリカ合衆国は違反ゼロ。
ちなみに、キク科野菜(主にレタス)は、中国もアメリカも違反ゼロ。豚肉も同様。
このような数字を見ると、鰻の違反に端を発した一連の報道は、明らかに偏っている。