戻りつつある奄美の森

yahara2007-07-08

シンポジウムの前後に日程をとって、20年ぶりに奄美の森を歩いた。
最初に奄美大島を訪問したのは、1987年のはずである。そのときの調査結果は、以下の和文論文にまとめられている。

  • 清水善和・矢原徹一・杉村 乾(1988)奄美大島のシイ林における伐採後の植生回復 駒沢地理 24:31-56.

当時、奄美大島の森林は、ほぼ30年伐期でパルプチップの原料に利用されていた。奄美では、伐採から30年たつと、木が生長して森らしくなってくる。上記の論文で報告した調査結果によれば、皆伐後30年で、胸高断面積の点では天然林の80%にまで回復していた。そのタイミングで、伐採していた。
伐採直後には、ススキやコシダの群落がすみやかに発達するので、大規模な表土流出はおきない。雨量や気温にも恵まれているので、森林は急速に回復する。しかし、回復しないものがある。希少種である。もともと個体数が少ない種は、伐採の影響を受けて消失しやすいのだ。
あれから20年。森は、どんなに衰退しただろうかという不安にかられながら、奄美を再訪した。
ところが、予想に反して、奄美の森は戻りつつあった。
20年前に私たちが奄美で調査して以後、奄美林業は衰退し、パルプチップ材としての伐採が行なわれなくなったのだ。その結果、20年前に伐採された各地の森が、20年生の若い森へと回復していた。20年前に伐り残された森は、ほぼ50年生の森に育っていた。
さらに、名瀬市周辺のみかん園も放棄され、若い森へと遷移しつつあった。
何と素晴らしい回復力だろう。
もちろん、最近でも着生の多い立派な森が伐採されたり、林道工事で貴重な植物群落が消失したりという残念な出来事は続いている。決して楽観できる状況ではないが、20年前に比べれば、はるかに希望の持てる状況が生まれていると感じた。
奄美大島を含む南西諸島を、世界自然遺産に登録する努力が開始されている。これに呼応して、奄美群島国定公園を国立公園化する方向も検討されていると聞く。
奄美大島の場合の難しい事情は、屋久島と違って民有林が島の森林の大半をしめていることだ。奄美大島のすばらしい自然を後代に残していくためには、土地の所有者の理解が欠かせない。
小中学生を対象にした龍郷町の環境教育の取組みは、奄美大島の自然を守る担い手を育てることにつながる。それは一見回り道のようだが、民有林が大半をしめる奄美の森を守るうえでは、もっとも効果的な方法かもしれない。
写真は、オキナワキノボリトカゲ。こんな素敵な生き物を、学校の近くで見ることができる。奄美大島には、ほかにも魅力的な生き物がたくさんいる。そのすばらしさを子供たちが体験を通じて学べば、奄美大島の自然はきっと守られるに違いない。
ちなみに、キノボリトカゲは、メスよりオスが大きいと書かれているが、私が見た交尾中のペアでは、メスのほうが大きかった。以前、島ごとにオスとメスの相対サイズが違うと聞いた記憶がよみがえった。
生態学的にも、きわめて面白い生き物だが、残念ながらほとんど研究されていない。