奄美アサギマダラシンポで講演

昨日(7月5日)は、奄美大島龍郷町りゅうゆう館ホールで開催されたシンポジウム「旅するチョウ、アサギマダラから見た奄美」に招かれ、講演した。
どうして「アサギマダラ」のシンポジウムで私が話したかというと・・・話せば長くなる事情がいろいろあったのだ。
依頼主は、私の研究室でポスドクとして奄美大島の外来動物を研究したあと、現在京大21世紀COEプログラム「昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生」の研究員として、奄美大島に常駐して環境教育に取り組んでいるM君である。彼から、奄美大島で環境教育に関するシンポジウムを開催するので、話をしてほしいと頼まれた。彼がポスドクとして奄美入りしたころから、奄美大島にいずれは足を運びたいと考えていた。しかし当時は、九大新キャンパスに加えて今津干潟と屋久島に関わり始めていたので、たとえM君の依頼であっても、もうひとつ現場を増やす余裕はなかった。一度足を運べば、それっきりというわけにはいかず、関わりが続く可能性が高い。関わり続ける余裕がない段階で足を運ぶのは、無責任だと考え、M君の依頼を聞き流してきた。
あれから5年あまりの月日が経過した。この間、九大新キャンパス・今津干潟と屋久島での調査や保全努力は確実に進展した。もちろん、今後もこれらの現場との関わりは続く。とくに、屋久島のシカ問題への実効性のある対策をできるだけはやく実現したい。今年も屋久島で現地報告会を開き、島の方々と一緒に知恵をしぼる予定である。
とはいえ、上記のフィールドに関する3年間のプロジェクトが2つ同時に終わり、報告書作成も終えたので、少し精神的に余裕ができた。そこで、M君の依頼を引き受けて、シンポジウムで講演することにした次第である。
しかし、引き受けた時点では、「アサギマダラ」を題材にとりあげたシンポジウムだとは聞いていなかった。小中学生が聴衆の半分近くをしめるということも認識していなかった。さらに、2時間半のシンポジウムの4人目として、夜8時をすぎてから、集中力が低下した小中学生相手に40分も話をするなんて、知らなかったよ。
シンポジウムを主催したのは、龍郷町と京大21世紀COEプログラム「昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生」。どうして、龍郷町と京大21世紀COEがタッグを組んで「アサギマダラ」を題材に「環境教育」かというと・・・やはり、話せば長いのだが、要するに、M君が両者の縁をとりもったわけだ。
プログラムは以下のとおり。

1 開会あいさつ:藤崎憲治(京大教授、21COEリーダー)
2 講演:栗田昌裕(群馬パース大学教授)
 「旅をするアサギマダラの7つの謎と奄美大島の自然・環境との関わり」
3 講演:藤崎憲治
 「アサギマダラの渡りの謎を解く」
4 講演:前園泰徳(京大COE研究員)
 「知る、観る、感じる、新しい環境教育」
5 講演:矢原徹一
 「花と昆虫の不思議な関係:生き物たちから私たちへのメッセージ」
6 閉会あいさつ:宏洲弘(龍郷町教育長)

夜8時台の講演で、小中学生を退屈させないために、クイズ形式の講演を用意した。40分の講演に対して、スライドは22枚。私の標準では、かなり少なめの枚数である。しかし、小中学生にマイクを向けて質問しながら話を進めるやり方では、22枚は多すぎた。講演時間が40分であっても、12枚程度で良かったと思う。また、動画を使うべきだった。
へえー、と思った人に掲げてもらう、アサギマダラの小旗など、ちょっとした小道具もあったほうが良かった。
講演の組み立ては、小中学生にわかるようにと工夫したつもりだったが、大人の参加者を意識から除外できていなかった。前半は良かったと思うが、後半のストーリーが複雑すぎた。前半のクイズも、もうすこし噛み砕いた内容にする必要があった。
反省すべき点は多いが、良い経験になった。
私の責任ではない反省点として、小中学生参加の集まりで、2時間半(実際には3時間近く)のプログラムは長すぎた。また、講演4題は、欲張りすぎだ。
それに、講演要旨を書く段階まで、実はアサギマダラのシンポジウムだと私に知らせずにおくとは、M君も人が悪い。
そりゃあ確かに、私が長年研究しているヒヨドリバナの花蜜にはpyrrolizidine alkaloid が含まれていて、アサギマダラの雄は性フェロモンを作るために必須のこの物質を集めに、わがヒヨドリバナにせっせとやってくる。だから、アサギマダラ+ヒヨドリバナ+環境教育、という3つのキーワードで話を作れと言われれば、何とかなるわけだが、さすがにあわてた。
新大陸のオオカバマダラもまた、メキシコ産のヒヨドリバナ連の植物で吸蜜する。メキシコ・ミショアカン州にあるオオカバマダラの集団越冬地には、ヒヨドリバナ連のAgeratina属の低木(樹高6-7m、つまりアカメガシワ程度の低木)が群生していて、その花に、何万匹ものオオカバマダラが乱舞する様子は、圧巻だ。残念ながら、その様子を撮影したスライドを探し出す余裕がなかったが、そういう現場を見た経験があったので、私ならではの話ができたとは思う。
とはいえ、今回のシンポジウムの主役は栗田昌裕さんだ。年間1万頭から2万頭に及ぶ標識を行い、アサギマダラの渡りを追って北は福島から南は沖縄まで旅を続け、アサギマダラの「謎」の数々を追い続けるその迫力は、子供たちにもしっかりと伝わったに違いない。しかも、話し方がとてもやさしくて、チャーミングだ。数学科を出たあと、内科医になり、数年前にアサギマダラへの関心に目覚めたそうだが、不思議な魅力を醸し出されている方だ。今回は、栗田さんの講演を聞き、栗田さんと知り合うことができたことが、最大の収穫だった。
http://www.srs21.com/
をあとでじっくり拝見しよう。