カンボジアから帰国

プノンペンからバンコクに飛び、バンコクを0時(日本時間午前2時)に発ち、今朝8時に福岡空港に着いた。機内で4時間くらいは熟睡した。大学に直行し、急ぎの仕事に対応。とくに、5月2日開催の「アジア保全生態学センター開設記念シンポジウム」の最終準備に時間を割いた。今回は、特任スタッフやGCOE事務室スタッフを信頼して、直前までカンボジア調査に出かけさせていただいた。私がいなくても、当日の準備がしっかり進んでいた。ありがたい。
カンボジアでは、あこがれのカルダモン山地を訪問できた。ただし、標高500m程度まで。最高峰は1700m以上あるので、中腹にすら到達していない。
中央カルダモン山地の保護林地域にある、Conservation Internationalのゲストハウスに4泊し(18日〜22日)、6地点で100m×5mのトランセクト調査をした。トランセクト中の樹木種(高さ1.5m以上)をすべて記録する(有無の記録のみ)という簡単な調査法だ。植生を記述するには、個体数や被度の調査が不可欠だが、種の分布調査をするためには、1地点でかける時間を少なくし、できるだけ地点数を増やすほうが良い。この方法で、250種程度の樹木を採集することができた。これまで調査してきたカンポントムなどの低地林との共通種もあるが、割合は少ない。大部分は初採集だ。同定作業に秋までかかりそうだ。
保護林地域にもかかわらず、二次林が多い。比較的自然度が高い林でも、大木の多くは伐採されている。ただし、森林自体は残っているので、種の消失は起きていないだろう。
中央カルダモン山地の保護林地域は、その西に位置するプノム・サムコス国立公園と、東側に位置するプノム・アウラル国立公園の間に位置している。これらをあわせた山域が、カルダモン山地である。最高峰はプノム・アウラル国立公園にある。中央カルダモン山地の最高峰は、1200m程度のようだ。
国立公園は環境省管轄のため、環境省許可申請が必要だ。しかし保護林地域は林野庁管轄なので、林野庁の判断で調査ができる。九州大学カンボジア林野庁と学術交流協定を結んでいるので、調査にあたっては林野庁の全面的な協力が得られる。今回は、林野庁で植物にもっとも詳しいPさんが同行してくださったので、短期間にとても充実した調査ができた。
とはいえ、今回は、私の故郷にたとえれば、雷山の山麓から登山口付近を6地点調べたにすぎない。一方、2つの国立公園と中央カルダモン山地の保護林地域をあわせると、福岡県の半分程度の面積になる。そう考えると、カルダモン山地の樹木図鑑を作るだけでも、数年はかかってしまいそうだ。
しかし、そうゆっくりもしていられない。中央カルダモン山地でも、違法伐採による森林の劣化が進んでいる。中国資本によるダム建設のために立派な林道が作られ、それが違法伐採に利用されている。早く調査を進め、優先して保護すべき場所を特定し、より有効な保全対策をとる必要がある。
調査日程の後半で再訪したカンポントムの低地林は、前回よりもさらに荒れていた。落葉林のプロットのひとつが、新たに大規模な違法伐採を受けていた。常緑林のプロットの一つでは、プロットを貫通して伐採用の小道が作られていた。ゴム園開発は訪問のたびに拡大している。このままでは、あと10年もすれば、カンポントムの低地林はほとんど消失してしまうのではないかと憂慮される。調査を急がねばならないと痛感した。
カンポントムに関しては、これまでの調査で撮影した写真を使って、樹木図鑑のドラフトを作成し、仮製本したものを林野庁に届けた。とても喜んでもらえた。7月に国王が参加される国家的な催しがあり、そこで研究成果を披露するために、きちんと製本した印刷物を作ることになった。