学振の申請書を書いている人は「これポ」第3部を読もう

卒論生にとっては待望の書「これからレポート・卒論を書く若者のために」が発売になったのに、3日のブログではのっけから悪口を書いてしまったようで、どうも後味が悪い。良いところはもっと褒めないといかんと反省し、もういちど本書について取り上げることにした。
「これポ」第3部では、「日本語の文章技術」をとりあげている。構成は以下のとおり。

第一章 わかりやすい文章とは
第二章 文章全体をわかりやすくする技術
第三章 一つ一つの文をわかりやすくする技術

この第3部は、感想文や要約レポートを書くうえでも参考になる。大学一年生にもぜひ読んでほしい。大学一年生もいずれ卒論を書くのだから、本書を一年生のうちから手にしておいて損はない。一年生にはまず、第3部を読んで、わかりやすい文章を書くとはどういうことかを学ぶことを勧める。わかりやすい文章を書く技術を身につければ、試験の点数も確実にあがるだろう。何しろ、採点する教官は全員の答案を読むのである。わかりにくい文章で書かれた答案は、それだけで点数が下がると思うべし。
第3部の7割をしめる第三章は、本多勝一の名著「日本語の作文技術」(ISBN:4022608080)をベースとして、著者独自の工夫を加えて書かれている。342ページの名著の解説がわずか40ページで読める。こんなに得な話はないではないか。
ただし、40ページの解説はやはり、342ページで書かれた名著とは違う。だから、本書の第3部を読んだら、次には本多勝一の名著「日本語の作文技術」に挑もう。大学生なら、ぜひ一度は読んでおくべき本である。
さて、学振の申請書を書いている大学院生、ポスドクのみなさん。わかりやすい文章を書くことは、学振の申請書においても重要だ。申請書をひととおり書き上げたら、本書を買って第3部を読んでみよう。自分が書いた文章のわかりにくさに気づかされることだろう。
もちろん審査員は、多少わかりにくい文章でも、一生懸命読んで、申請者の研究能力を見極めようと努力する。しかし、その努力にも限度はある。また、わかりやすい文章を書く能力は、研究者にとって必要な能力のひとつである。
そもそもわかりやすい文章を書くということは、書く内容を論理的に整理するということである。

わかりやすさ−。それは、読者が情報処理をしやすいことである。(「これポ」第3部:169ページ)

論理的によく整理された文章では、書かれた情報を関連づける作業に大きな負荷がかからない。したがって、ワーキングメモリーから中期記憶や長期記憶への情報処理が円滑に進む。論理的に整理されていない文章を読むと、エピソードバッファーの容量をフルに使って情報を処理しなければならないので、情報が中期記憶や長期記憶に定着する前に、ワーキングメモリーから消失してしまうようだ。
私の経験では、ワーキングメモリーだけで学振の申請書を審査するのは無理である。評価をするために真剣に読んだ申請書の内容は、後々までかなり覚えている。したがって、ワーキングメモリーから中期記憶や長期記憶への情報処理が円滑に進むように書かれた申請書は、きちんと評価されるのだと思う。
しかし、問題は単に審査員にうまく理解してもらうということだけではない。限られた字数の中で、書くべき内容を論理的に整理する能力は、研究者として職を得て以後も、必ず必要とされる。したがって、論理的によく整理された申請書に高い点をつけるのは、理にかなっている。
「これポ」は、論理的によく整理された申請書を書くうえでも、大いに役立つと思う。