調べて書く技術と発想法

調べて書くプロセスでは、いきなり論文形式をめざしても、うまくいかないことが多い。これは、5年間、少人数ゼミで一年生を教えた経験からの結論である。
昨日のブログでこう書いた。今日は、ではどうすればうまくいくか、という問題について考えてみたい。
そもそも、調べて書くというプロセスは、決して論理的ではないのである。筋道を整理し、仮説・結論を設定していくプロセスは、帰納とも演繹とも違う。パッとひらめいたり、ピンとくるプロセスを通じて、仮説→検証という論理の流れが組み立てられていく。
パースのアブダクション論を援用して、このプロセスの重要性を説いたのは、梅棹忠夫である。彼の名著『知的生産の技術』(ISBN:4004150930)に、アブダクションという考え方が紹介されているはずである。高校生の頃に読んだ本なので、記憶違いがやや心配だが、たぶん記憶は正しいと思う。
梅棹の友人である川喜田二郎は、もうひとつの名著『発想法』(ISBN:4121001362)で、KJ法という技術を提案した。この技術も、アブダクションという考えに依拠している。
彼は、フィールドワークによってアイデアを発想し、体系化するプロセスを、問題提起→内部探検(頭の中)→外部探検(情報集め)→観察→記録→分類→統合という7段階に整理した。そして、集めた情報をもとにアイデアを発想し、独創的な見解をまとめる技術を提案した。
手元に『発想法』がないので、ウェブを検索したところ、「情報考学」ブログ2005年10月17日の記事が、KJ法をうまく要約していた。このサイトの要約から、核心部分を引用する。

  • 集めた情報を紙片に書き出す。意味を圧縮してほどほどの大きさの意味単位に分割する。量的には約2時間のブレインストーミングで紙片数十枚から百数十枚を書き出せという。
  • 次にグループ化。「この紙きれとあの紙きれの内容は同じだ」「非常に近いな」と親近感を覚える紙きれを一箇所に集めていく。5枚程度の小チームを編成して中チームをつくり、同様にして大チームをつくる。チームの次元をわかりやすくするために赤や青で色分けする。小チームはクリップで、中・大チームは輪ゴムで束ねるのがよい。
  • (1) 離れ小島は無理にまとめずおいておく, (2) 小チームから大チームをつくる、逆はだめ がコツ。
  • 複雑すぎず、相互に親近感を持ちながら、ある程度質的に異なるグループは、独創的解釈を引き出す鍵になる。

この本を読んだのも、高校生のころだから、私は昔からアイデアを文章にまとめるという作業に関心があったのだろう。紙片に情報を書き出して整理するという作業はおもしろくて、何度もやった。
今でも、文章をまとめるにあたって、パワーポイントのスライドに、情報を書き出し、外部化して、アイデアを練るという作業をしばしば行なう。連休中に、「花香と花色−ハマカンゾウキスゲの種差の遺伝的背景を探る」という総説を書いたが、この執筆にあたっても、この方法を使った。

このような作業を通じて、頭の中に雑然と詰め込まれ、整理されずにただよっている情報をつなぎあわせてはじめて、仮説→検証、というような論理の流れが組み立てられる。この段階になれば、「これ論」や「これポ」に書かれているような、論文化の技術が役立つ。しかし、それ以前の段階で、論文化の技術をいくら講義してみても、学生はちっともレポートを書けない。これが、5年間、少人数ゼミで一年生を教えた経験からの私が得た結論なのである。

さて、今日も昼休みが終わった。報告書の執筆作業を再開しよう。

なお、パースのアブダクション論に興味のある方はコチラを参照されたい。

また、三中さんは、『系統樹思考の世界:すべてはツリーとともに』(ISBN:4061498495)の中で、アブダクションの考えを、仮説選択というより一般的な方法論との関連で紹介されている。