『不都合な真実』の書籍版

不都合な真実
アル・ゴア著 枝廣淳子(訳)
ランダムハウス講談社 2800円
ISBN:9784270001813

マイナス5度の札幌からプラス10度の東京に来た。15度の温度差の大きさを感じている。
羽田空港売店で、上記の本を見つけ、さっそく購入した。
写真とグラフが多用されているが、私がとくに感心したのは、142-143ページの記述。

私は2度、原子力潜水艦で、北極の氷冠の下をくぐったことがある。潜水艦は氷の中を通り抜けて水面に浮上した。2度目に浮上したところは、ぴったり北極点だった。(中略)
潜水艦は、氷の厚さが1メートル以下の場所でしか浮上できないので、海軍は上向きにつけたレーダーで氷の厚さを測り、精細な記録をつけてきた。
海軍は長年、このデータを機密情報扱いとしていた。私の説得を受け入れてこの記録を開示した時、その記録データは息をのむような状況を示していた。

143ページにはその状況を示す折れ線グラフが掲載されている。
北極海氷の厚さ「海氷面積」は、20世紀初頭から1970年までは13.5cm百万平方キロメートル前後で変動していた。ところが1970年代以後、減少傾向が続き、2005年には12cm百万平方キロメートルを下回っている。
このデータな貴重だ。ゴア氏自身の判断と努力に敬意を表したい。
ただし、できれば、何地点の測定値を平均したものか、測定点は北極海のどのエリアか、などについて注釈をつけてほしかった。
※143ページのグラフは、海軍の「機密情報」とは別物らしい(下記:kab-logさんのコメント参照)。まぎらわしい。「機密情報」は、本には出せないということか・・・。

先日、暖冬の原因を地球温暖化と単純に考える論調に懐疑的な意見を書いたが、私自身は地球温暖化を疑ってはいないし、それは重大な問題であると考えている。
ただし、地球温暖化の議論の中で、しばしばローカルな問題(都市温暖化、土地利用の拡大、生物多様性の減少、外来種の増加など)が軽視されがちな点は、気になっている。「グローバル」な問題のほうが「ローカル」な問題よりも重要だ、と安易に考えてはいけない。ローカルな要因の影響は、グローバルな環境変動の影響よりもしばしば大きく、そしてグローバルな環境変動の影響は、ローカルな要因との相互作用を通じてあらわれる。
結局、さまざまな問題を総合的にとらえ、包括的な対策をとっていく必要があるのだが、政治家も科学者も、自分が強く関心を抱く問題の重要性を強調しすぎる傾向がある。私自身、過去にそのような強調をして、あとで反省したことが幾度もある。
上掲書にも、そのようなバイアスがないとは言えないが、上記のグラフのように科学的なデータに依拠しようとする姿勢が明確である。地球環境問題に関心を持つ人なら、一度は目を通しておくべき本だろう。