ミラクル・バードウォッチャー

今日は、岡崎生物学コンファレンスで会ったとんでもない人物の話をしよう。
その名は、カガン。
カガン・ハッキ・セケルジオルゥというトルコ出身のこの若者は、名門スタンフォード大学保全生物学研究センターのポスドクで、鳥の絶滅リスクについて研究している。PNASなどにいくつも論文を書いていて、研究者としてもアクティブだが、それ以上に彼はその行動スケールの大きさの点で、ナチュラリストの多い生態学系の研究者の中でも、とてつもなく抜きん出ている。
岡崎生物学コンファレンスの招待参加者を決める段階で、シンガポールのソディ教授から彼のことを聞き、彼のウェブサイトを見た。そこには、世界各地で彼自身が撮影したすばらしい動物写真が掲載されていて、度肝を抜かれた。アフリカのサバンナ、アマゾンの熱帯雨林はもちろんのこと、南極やアンデス高地の厳寒の中にも、彼の姿はある。
岡崎生物学コンファレンスの前に、1週間ほど日本に滞在して鳥を見たいという。福岡にも来るというので、研究室の者が案内するよという返事を書いたのだが、無視されてしまった。たしかに、彼に案内をつけていたら、きっと足手まといだったことだろう。言葉の通じない国で旅行をすることなど、彼にとってはおやすい御用なのだ。
彼は福岡でレンタカーを借り、クロツラヘラサギなど干潟の鳥を片端から見た後、車を南に飛ばし、八代や日向市などで鳥を見てきた。また、北海道にも足を伸ばし、苫小牧ー東京をむすぶ夜行フェリーの中や、私が聞いたことのない湖のほとりで、すばらしい鳥の写真を撮ってきた。はては、宿泊した民宿で、橘川次郎さんに会ったというから、とんでもないミラクルボーイだ。
橘川次郎さんは、オーストラリア在住の世界的に著名な鳥類生態学者であり、最近では日本に毎年見えているそうだが、それも限られた日数の滞在である。その橘川さんが、北海道に足を伸ばされた日に遭遇する幸運を引き寄せたのは、彼の鳥への執念である。
一見、万にひとつの可能性もない偶然のように見えるが、実はそうでもない。世界はスモールワールドだという好例だろう。その理由は、またこんど。
もうすぐ東京行きの便に搭乗する時間である。