生態系研究・ナチュラルヒストリー・還元主義

久しぶりの更新である。
この一週間、新センターを作るために必要な拠点形成調書の準備に追われた。今日5時の締め切りまでに、研究戦略課に調書を送り、ほっと一息ついている。
「拠点形成調書」準備にあたっては、九大の生態学・フィールド科学研究者の特色を生かした共同研究のアイデアをあれこれと考えながら、現実的で、説得力があり、かつチャレンジングな「拠点形成」計画を書いてみた。難しい作業だ。自分の研究計画をたてる作業と違って、組織の特色を生かし、それを発展させる計画を書かなければならない。論文を二編書くのに匹敵するエネルギーを使ったと思う。
「拠点」がとりあげるテーマとしては、「生物生態系研究」という表現を使った。この言葉で、生態系の物理状態に関する研究と生物多様性に関する研究を統合するアプローチを表現したいのである。しかし、この「統合」に関しては、まさに、言うはやすく行なうは難し。統合のための研究戦略に関する、具体的なアイデアが必要である。いくつか、私なりの考えはある。解決すべき問題をはっきりさせれば、それを解くための方法論については、いろいろなアイデアが考えられる。肝心なのは、解くべき問題をはっきりさせることだ。
一昨日と昨日は、九大で開催された個体群生態学会のシンポジウムに出席した。牧野君のマルハナバチの話や、千葉さんのカタツムリの話がとくに印象に残った。「ナチュラルヒストリー」にはまだ大きな可能性があることを実感できた。生態学者として成功するひとつの条件は、野生生物の世界にまだまだ隠されている、抜群に面白い現象を発見する能力を培うことだろう。この点で成功するには、理論的洞察力を磨くだけではダメである。
しかし、一方で、分子生物学の大きな発展の駆動力となった還元主義的アプローチが、生態学の分野でもこれから大きな威力を発揮するだろう。
個体群生態学会シンポジウムの最後に、今後の研究の方向性についての議論が交わされたが、還元主義的アプローチの重要性を指摘する意見は聞かれなかった。テーマとしてとりあげられた「性的コンフリクト」に関する今後の研究では、還元主義的アプローチを発展させることが不可欠だと思う。しかし、個体群生態学や行動生態学の分野の研究者には、この方向性をめざそうという機運はまだ弱いと思った。
生態学分野の研究者が還元主義的アプローチを積極的に採用するのが早いか、分子生物学者が「性的コンフリクト」のような生態学的に面白い現象に参入するのが早いかは今後の成り行き次第だが、いずれにしても還元主義的アプローチがこの分野の発展の主たる駆動力になる日は遠くないと思う。もう、やればできる状況が生まれているのであり、あとは誰が先鞭をつけるかの問題である。