シンポジウム「屋久島生態系の保全」アンケート集計結果

公開シンポジウム「屋久島生態系の保全〜希少植物とヤクシカの動態を中心として〜」は、106名の参加を得て、無事終了した。森林総合研究所チームが企画したシンポジウム「屋久島の森林の成り立ち〜ヤクスギとヤクタネゴヨウの森〜」とともに、財団法人屋久島環境文化財団の平成17年度屋久島研究講座の一環として開催させていただいた。正確には、財団法人屋久島環境文化財団と、私を代表とする屋久島研究プロジェクト(通称:プロジェクトY)・森林総合研究所の共同主催、上屋久町・屋久町・教育委員会屋久観光協会の共催、ヤクタネゴヨウ調査隊の協力の下に実施した。
プロジェクトYは、正式には「地域生態系の保全・再生に関する合意形成とそれを支えるモニタリング技術の開発」という、環境省環境技術開発等推進費補助金にサポートされたプロジェクトの一環である。島(屋久島)・里山(九大新キャンパス)・水系(京都市深泥池)という3種の生態系を代表するモデル地域で、市民・島民と協力して調査を進め、生態系の保全や管理対策に関する合意形成を進めながら、対策を立案していくケーススタディとなることを目標にしている。
今回の公開シンポジウムは、3年間のプロジェクトの折り返し点において、これまでに得られた成果を島民の方々に紹介し、現状認識や対策のあり方についての合意形成を進めることを目的として実施した。来年にも同じ時期にシンポジウムを行い、次回には、屋久島の生態系管理を考えるための協議会を発足させたいと考えている。その方向に向かって、良いスタートが切れたと思う。
ヤクタネゴヨウ調査隊の方々には、準備にあたり大変お世話になった。本来なら事前に打ち合わせ会を持ち、シンポジウムの進め方についてきちんと意思統一をすべきだったが、この点は私の配慮が行き届かず、ご迷惑をかけた。屋久島に到着するとすぐに調査に出かけてしまい、事務局サイドの打ち合わせや体制づくりがおろそかになった。また、総合討論のパネラーをお願いした島民の方々との打ち合わせは、シンポジウム直前になってしまった。シカが入れない植生保護柵を設置した効果について、最新のデータをとってシンポジウムで話したい、という研究者魂がつい頭をもたげてしまった。
「合意形成」を旗印に掲げるプロジェクトで、意思疎通を欠くようでは、本末転倒である。今後の行動で、信用を回復したいと思う。
このような私の配慮不足・準備不足にもかかわらず、シンポジウムが円滑に運営され、成功裏に終了したのは、ヤクタネゴヨウ調査隊、および屋久島環境文化村センターのスタッフの方々のおかげである。心から、感謝の意を表したい。
106名の参加者のうち、26名の方がアンケートに回答してくださった。その内容を以下に記録しておく。いただいたご意見は、これからの議論の中で生かしていきたいと思う。

(1) 矢原講演
○ 漠然とシカの食害が有るだろうと考えていたが、これ程希少種への影響が出ているとは。今回改めて強く認識できました。
○ 調査とはこういうものだ!! ということが改めて分かった。すごく地味に根気良く調査されている。
○ なぜシダ植物をシカは食べないのか? 植物の種類とシカの嗜好性について素人にももう少し分かりやすく説明をいただきたかった。協議会の発足には賛成です。
○ 配られた資料の図が小さい。後で見直す時によくわからないので、有料でも良いから大きい見やすい資料が欲しいです。
屋久島島内の管理体制を求めていることがよくわかった。

(2) 千葉講演
○ すごくていねいな、はっきりとした口調。聞きやすかったです。
○ 順序立てた解析方法とその説明が非常にわかりやすかった。
○ (モクタチバナはあまり食べられていないという結果だったが)西部の森では、モクタチバナの幼木であっても、シカの食痕が目立ちます。
○ シカの食害と思われる植物の写真をもう少し多く提示していただきたかった。
○ 標高が上がって群落構造が変われば林冠がうっ閉して、林床植生は貧弱になっていくので気にならかかったが、違う見方があると改めて見えなかった現状が見えて有意義な話でした。
○ シカが森林植生に影響を与えるのは当然。
○ グラフが多く少し難しかった。
○ 早口。

(3) 立澤講演
○ なるほどと大変納得ができるのですが、日常生活をしている(特に林道を車で走っているときなど)中で、今回「少ない」と出ていた南部でも頻繁に見かけるので、そのデータ量をもう少し精密に見ていただけたらと思いました。
○ 調査方法がわかりやすい。
○ 「地元による責任ある管理」→共感できます。
○ おもしろかった。
○ ペンライトの動きがチラチラしすぎて目障りでしたが、とてもマジメな人柄が出ていて好感がもてました。
○ 毎回楽しみにしています。これからも調査がんばってください。※質問なのですが、ヤクシカニホンジカの中でもっとも小さいと言われていますが、今現在もやはり、もっとも小さいのですか。地球温暖化などの環境変化などで、マゲジカキュウシュウジカとかわらないとかあるのですか。
○ グラフの軸の単位が示されていず、理解しにくかった。
○ 民家の被害の実態もよく分かるような記録の事例はなかったか?
○ 現在は森林の回復過程にあるというのであれば、(シカの増加の原因は)単純に狩猟の問題。

(4) 松田講演
○ 知床の「世界遺産」が一人歩きしていること。屋久島も同じ。
○ 知床の状況はよく理解できた。
○ 声・言葉・間の取り方が上手で、とてもなめらかに耳に入ってきた。内容もわかりやすかった。
○ 話術がおもしろい方ですね。
○ とても聞きやすい説明だった。
○ 内容的には判りやすかったのですが、データ量が多かったのと、個人的に新しい分野だったので、時間的に不足していたので、理解(消化)に時間を要しました。でも屋久島にもうまく反映できたらと切に願います。

(5) パネルディスカッション
○ 北海道でも古来(アイヌ)食用として重要だった。(シカ肉を)食用として流通するシステムも良いのではないかと思います。
○ まだまだ研究中とのことで、断言できることが少ないということを知った。調査はまだはじまったばかり。
○ 地元の方の意見がもっと多く出るような雰囲気がほしかった気がします。しかし、難しい問題ですから、やむをえないのかもしれませんね。
屋久島のことを考えていただいて、ありがとうございます。
○ シカと森林の相互作用として生態系を理解すべきだと思うが、どうも森林を維持するためにシカの個体数を考えるというのは、根本的におかしいのでは。昨日の議論にもあったように、今ある自然を定常的・安定的なものと考えるのか、長いスパンで動的なものと考えるかによっても、シカのあり方の評価が変わってくるのでは。
○ 話の流れを無視する人がいて、話が前後して(また反れて)、参加しにくかったです。パネラーの先生方の話はとても興味深かったです。
○ 最後のほうでやっと盛り上がってきた感がある。
○ 時間的・内容的(とくにディスカッションの流れ)に厳しかったのでは。
○ もっと時間をかけたほうが良い。

(6) ヤクシカの管理の是非・そのあり方についてのご意見をお聞かせください。
○ 思い切った駆除をすると共に、スギばかりの人工林等を、動物たちがふつうに暮らせるように管理していくことが重要。FSC認証を目指す。
○ 一元的に対応する体制は必要であろう。
○ 保護獣の指定をはずしたらすべて解決するのでは。優秀な食料(であり)、郷土料理など観光資源として活用できるはず。それで、目に見えて減ってきたら、また獲るのを控えればよい。波があって当然で、むずかしく考えすぎなくても良いのでは。
○ 早急に考える必要があると思いますが、どのような方法が良いかはよく考えたほうが良いと思います。
○ 駆除・処理に対する費用の問題(があるので)、松田先生の資源としての見方に賛成。
ヤクシカの増加・植生への影響があるだろうということはよくわかったのですが、対策としては「これ」というものがあるわけではなく、むしろそれは科学者の人たちだけじゃなくて、島の人で取り組まないと意味がないのだなと実感しました。でもそのために自分がどう、どこへ、何をしていけばいいのかもよくわからないというかんじでした。どこまでこのシカの問題が深刻かという認識がまだ足りてないのかもしれないです。それをどうとらえていくか・・・。「駆除」に賛同したとしても、それが(殺すのが)人任せではなくて、しっかりととらえないとだめだとも思いました。
○ 難しい問題。
ヤクシカが森林植生に影響を与えているのは当然で、むしろ森林植生とのバランスの中で個体数が安定していたと思われます。従って、自然林については、ヤクシカと森林との相互関係をもう少しきちんと認識する必要があると思います。一方、農業被害に関しては明解な問題であり、これを防ぐため、国有林での駆除再開は必要と思われます。
○ 島民が調査にもっと協力できれば良いと思う。ひとりひとりではどうすればいいか分からないので、公の機関の呼びかけなどが必要なのでは?
○ シカは島の特産品にならないでしょうか。
○ 「定期的な捕獲」はやはり有効だと思います。(もちろん、行政のバックアップが必須だと考えます)。また同時に、定期的な動態(密度)や生態調査も行って、できるだけ「現状把握」に勤めていただけたら良いと思います。東京・奥多摩のシカ害を知っているだけに、あそこまでの被害になるまえに、町民(島民)との協力体制が作れたら良いと考えます。「シカの資源化」は賛成ですし、実際島民は食料にしているので、それを発展させたら、上手いものが出てくるのではないかと思います。(今でも島民はシカ肉を食べてますよ!)。
○ 管理されたやり方でシカをとっても良いと思う。皮や肉は新商品になるのでは? 北海道のように鹿牧場を作って、加工場も町をあげて作ると産業になるかも・・・。
○ 毛皮の利用・活用法を考えたい。
○ 観光的な魅力を多く持つ屋久島で、ヤクシカも重要な要素のひとつであると思う。観光客の反応を見てもよく分かる。本質的に屋久島の自然を管理するには、ヤクシカの管理も必要であると思う。その管理へ(向けて)、社会に広く理解してもらうにも、ヤクシカ屋久島を自然の管理・保全の発信地としていくのはどうであろうか。「次のステージの世界遺産へ」のキャッチコピーはいかがでしょうか。
○ シカ肉はおいしいので、専門店を作るなど、名物として活用してはどうかと思います。
○ 増加しているかどうか、果たしてどうだろう。私の15年間の観察では(居住地:長峰)やや増えているとは思うが、里山の伐採によって海岸まで降りてきたと思う。島民として何をやるべきか、できることは何か、積極的発言がなかったのは残念。
○ 特定地域における生態系を語るとき、ヤクシカの増加が生態系破壊(悪影響)を及ぼすから駆除するというのは、単純すぎて危険ではないだろうか。生態系には、人の暮らし、人の森の管理の仕方を含めた複合的な調査・検討が必要であり、対策を考えるのが望まれます。また、人と森の関係においては、日本では戦後5〜60年間の大変な短期間に、ダイナミックに変化しています。森林とヒトの暮らしについても充分に議論していただきたい。