ムヨウラン移植

今日は、午前中は、野外実習のまとめに対応。とは言っても、実習室にいたのは最初だけで、データ入力や追加の測定作業が始まってからは、研究室で山積した仕事に対応した。
午後は、学生への対応をTAにまかせて、新キャンパスに出かけ、ムヨウランの移植に立ち会った。3年前に手作業で移植を試みたが、シイの根にからまったムヨウランの株を、土の構造を崩さずに掘り取ることができず、結果として失敗してしまった。そこで、造成が進み、直近まで大型重機が入るまで、残りの株の移植を見合わせた。
今年は、1株しかムヨウランの花茎があがらなかった。果実をつけたこの株を、大型重機を使って、大切に移植した。
何しろ、移植がきわめて困難な場所に生えている。生育地は、丘陵の頂上に近い東向きの急斜面にあり、重機によるアプローチは容易ではない。しかも、50年生くらいのスダジイの株の、大きな根にはさまれて生えている。高木移植用の重機を使えば、スダジイの木ごと掘り取ることは可能だが、この方法では、移植先での植え込み作業に困る。移植先は、スダジイの大木が生えた照葉樹林の東向き斜面である必要がある。そんな場所に、大型重機が入れるわけがない。
そこで、根切りをしたあとで、通常仕様のバックホウを使い、株の周囲を土の構造を崩さずに掘り取り、運搬可能な大きさに整形したあとで、ござと縄で根回しをし、移植先の照葉樹林の西向き斜面まで車で運び、あとは人力で尾根をこえて東向き斜面まで運び、移植をした。
この移植作業を行なうには、造成作業が進み、尾根筋近くまで重機が入れるようになるタイミングを待つ必要があった。幸い、このタイミングが、夏も盛りをすぎ、ムヨウランがちょうど果実をほぼ熟させた時期に重なった。
ムヨウランの花茎の直下まで、森林の伐採・伐根と、重機による地ならしが進んだ今日の時点で、満を持して移植作業を実施した、
まず、株の周囲、径50cmほどの範囲でスダジイの根をのこで切り、バックホウのアームを伸ばして、土を崩さずに林床ブロックを切り取ることに成功した。周囲の表土は、土嚢につめて移植先に運んだ。
スダジイの木のそばの移植地に、30cmほどの深さで穴を掘り、そこにムヨウランの花茎が中心に位置した円形の林床ブロックを運んで埋めた。
縄で根回しをした林床ブロックは、木製のみこしにのせて、大人8人で運んだが、尾根をこえて、木の間をぬって林床ブロックを運ぶ作業は、なかなかに大変だった。慎重に作業にあたっていただいた建設業者の方々に心からお礼を申し上げたい。
移植作業のできとしては、ほぼ満点に近いと思う。唯一の、しかしかなり大きな不安は、ムヨウランの成長に必要な菌糸がきちんと成長するかどうかである。
腐生ランの栄養生理や、菌との関係については、わからないことだらけである。
この移植が成功して、九大新キャンパスで、ムヨウランの研究が行えるようになることを祈ろう。
5時ころに大学に戻り、野外実習の学生にいくつか指示をしたあと、ポスドクのF君にあとをまかせて、生協専務との打ち合わせに出かけた。
8時半すぎに研究室に戻ったら、学生は帰宅したあとだった。
明日は8時に来るそうだ。私もその時間には出勤しよう。
今日は、実習指導教官としては、あまり良い点がつけられない1日だった。
造成工事のスケジュールとの調整上やむを得なかったとはいえ、実習中に移植作業の立会いをするのは、教育に携わる者としてほめられる話ではない。
6時をすぎてからとはいえ、学生指導の途中で生協理事長の仕事に出かけるのも、気がとがめた。
一人で多くの責任を負いすぎていると思う。どれかが無責任になってしまう。
不本意なのだが、なかなか仕事が減らせない。困ったものだ。