「多種共存」の問題に新しい答えがあるか?

屋久島では、植物の分布調査をしながら、「多種共存」の問題についてあれこれと考えてみました。

生物の世界は、いったい、どうしてこんなに多様なのだろう?

これは、野生生物を対象に研究している人なら、誰しも興味のある問題でしょう。この問題に答えるために、多くの研究者が知恵をしぼってきました。その結果、「多種共存」を説明する仮説や理論が「多様化」し、主なものだけでも10を上回るアイデアが提案されてきました。
同行のTくんいわく。「いままで提案されていない新しいアイデアは、もう必要ないのかもしれない。」
これまでに提案されたアイデアの相対的な重要性を見積もることが、群集生態学の課題だろうとは、いつぞや私がTくんにメールで述べた意見でもあります。
しかし、さまざまな機構の相互作用は、しばしば非線形的なので、「相対的な重要性を見積もる」ということ自体、大変難しい仕事です。今回、Tくんがしみじみと語ってくれたように、個々の要因について独立に調べて、それを足し合わせれば理解できるというものでは、おそらくないのです。藻類や微生物の系を使った実験的研究ですら、なかなかすっきりした答えが出ていないのが現状のようです。
こう考えると、「多種共存」の問題に答えることは、絶望的に難しい課題に思えます。
また、もしこのテーマで、新しい発見がもうないとしたら、「多種共存」問題は、基礎科学の研究対象としては、報われない課題ということになります。
私は、分子系統学的なアプローチを群集生態学の研究に応用することに、まだ新しい発見の可能性があるのではないかと考えています。
具体的には、絶滅・種分化を促進する要因を調べることや、異所的に分化した2つの系統が二次的に接触したときに生じる変化を多くの系で比較することに、将来性を感じています。
「多種共存」を説明するニッチ理論では、競争力と分散力など、さまざまなトレードオフが仮定されますが、これらのトレードオフをもたらした進化的変化は、一般には、系統樹の枝のかなり深いところで起きているように思います。異所的に分化した2つの系統が二次的に接触したときに生じる形質置換において、このようなトレードオフが関わっているという例証は、見たことがありませんし、私の経験でもなさそうです。
二次的接触下での淘汰圧は、生育環境の分化を強化するのがもっとも一般的ではないかと思います。次に例が多いように思えるのは、開花フェノロジーの分化です。
屋久島の陸上植物全体を相手にしながら、この問題をもう少し深めてみたいと思っています。、