国際会議スタート

岡崎生物学コンファレンス「絶滅の生物学」初日が無事終わった。昨日は、イントロダクションの講演原稿を書くために、3時に起きた。英語で30分話すとなると、やはり講演原稿が必要だ。いつもなら、原稿を書いたあと、何回か声に出して読んで、原稿を暗記し、口のすべりも良くしてから、本番にのぞむ。しかし、今回はその余裕がなかった。結果として、かなりたどたどしい講演になったが、趣旨は伝わったと思う。
九大新キャンパスの林床移植地の2002年と2005年を比較したデータは、多くの参加者の印象に残ったようだ。
セッション1「Historic and prehistoric extinction」は、期待していたLiz Hadlyが怪我で参加をキャンセルしたので、2人だけの発表になった。Storrs Olsonは、第四紀の海面変動によって海に沈んだり海上に出たりという変化を繰り返したバミューダの小島で、海鳥がどのように変化してきたかを、化石資料から調べた研究を発表した。アホウドリの大きな営巣地が海に沈んだことなどが、化石資料からわかる。内容には興味があるのだが、骨の写真が次々に登場するのには、いささか閉口した。私は、骨には愛情を感じられないなぁ。
Emma Goldbergは、昨年発表された論文(Goldberg et al. 2005. Diversity, endemism, and age distribution in macroevolutionary sources and sinks. American Naturalist 165: 623-633)を読んで、招待した。まだ大学院生である。この研究は、たとえば「熱帯雨林は実験室か博物館か」という古くから問われている問題に理論的に決着をつけた。非常に単純なモデルだが、地域をソースとシンクの2つに分け、絶滅・種分化・分散のダイナミクスを簡潔に記述したうえで、ソース地域とシンク地域における種のage distributionの違いを予測するもの。この予測の違いを、貝のデータから検証してみると、熱帯では種分化が卓越していることがわかる。種のage distributionが、若いほうに偏っているのである。シンプルなモデル、的確な検証、そしてとっても明快な結論。こういう研究は、良い。講演では、理論を拡張して、系統樹を使い、枝長の分布を予測するという、進行中の研究を紹介してくれた。この研究も、ポイントを突いている。
セッション2「Patterns and genetics of extinction」の冒頭は、Andy Purvis。あのCAICの開発者であり、種間比較研究のリーダーである。前回の研究をさらに発展させた、聞きごたえのある講演をしてくれた。全世界の哺乳類のデータベースを使い、絶滅を促進する内的要因(体が大きいほうが滅びやすい、など)と、外的要因(人口が多い地域ほど滅びやすい、など)、およびその相互作用を、系統樹にもとづく種間比較統計を使って、統計学的に調べた研究。種の分布域の人口を、種の形質と見て、系統樹にもとづく種間比較統計にのせるという発想は、コロンブスの卵である。Phylogeny and Conservationという本を昨年Cambridge University Pressから出版したそうだ。知らなかった。買わねば。
なお、最新の研究成果は、Cardillo et al (2005) Multiple causes of high extinction risk in large mammal species. Science 309, 1239-1241.という論文として公表されている。
2人目のMelanie Stiassnyは、まず、脊椎動物の33%は淡水性だ、と切り出した。この指摘には、認識を新たにさせられた。淡水は、地球上の水の0.01%に過ぎないのに、という指摘にも、なるほどと感心させられた。淡水域での絶滅の語り部である。
続いて、世界中の淡水魚のデータベースを使って、淡水魚における絶滅の現状をレビューした。次々に世界地図が登場する。アメリカ西部、アフリカ大地溝帯などに、淡水魚の絶滅の点が集中していた。これらの絶滅の点を、要因別に打ち分けたりして、世界中で何が起きているかを説明した。このような、世界中を視野におさめた研究に、日本人ももっと取り組むべきだと思う。
3人目の太田英利さん(琉球大学)は、南西諸島の両生類・爬虫類の生物地理・化石の出現状況・種分化のパターンについて、レビューをされた。世界地図が次々に登場する話に比べると確かに「スケール」は小さいのだが、内容のスケールは決して小さくない。多くの参加者に、南西諸島がいかに興味深いフィールドかがわかったと思う。最後に、南西諸島の生物がいかに多くの脅威にさらされているかを紹介しても良かったのではないかと思うが、基礎的な内容の研究会だと考えて遠慮されたのだろう。
最後のDick Frankhamさんの話は、遺伝的多様性が絶滅をどのように促進するかについて、非常によく整理された講演だった。あまりにもきれいに整理されていたので、理論的詳細を知るものから見れば、単純化のしすぎだと思う部分があった。そこはさっそく、Russ Landeが質問したが、議論をはじめるとかなり理論的な詳細に立ち入ることになるので、表面的な議論に終わった。また、実際の絶滅過程では、遺伝的多様性よりも生態学的な要因が重要な場合が多い。DormancyやDispersalの能力が高ければ、遺伝的多様性が低くても絶滅は生じにくい。このような生態的要因について考える必要があるのだが、それはまた別の話というのが、Dickの立場だろう。
1倍2倍性のハチで、sex allelesが失われると、絶滅が加速されるという話は、以前からありそうな話だと思っていたので、納得した。自家不和合性や、MHCの場合と似た話である。
昨夜はひさしぶりに8時間寝たので、今日は快適である。