研究計画を考える

今日は、新キャンパスに調査に出かける。森林をブロックに分割して移植した場所の経年調査である。4年目の調査であり、これまでの傾向を分析して、今後の方向を考えなければならない時期である。明日は、セミナーで研究計画を発表するので、昨夜からパワーポイントのスライドを作っている。昨日のブログのコメントは、その作業の合間に、息抜きに書いた。火曜日は東京で、プロジェクトミーティングである。
そのようなわけで、これからの研究の方向性について、あれこれと考えている。
研究テーマは、大きく分けて3つある。

  • 有性生殖と無性生殖の進化
  • 夜咲き・蛾媒花の進化(キスゲ・プロジェクト)
  • 植物多様性のパターンと保全

最初のテーマは、大学院時代以来の長年の宿題である。有性生殖は病原体の進化に対抗するうえで有利だ、という「赤の女王」説の検証に取り組んできたが、最近ではこの検証を離れ、より長期的な環境変動の下で、有性生殖のほうが早く種分化を起こし、多様化できるというアイデアの検証に取り組んでいる。
2番目のテーマは、花と昆虫の共進化によってつくられた花の適応に関する課題である。植物繁殖生態学を含め、進化生態学の研究は、最適化モデルによる予測の検証→自然淘汰の実測→種間比較、という段階を経て進んできた。キスゲ・プロジェクトは、種差の遺伝学、という新しい方法を用いて、第4段階の展開を切り開くことをめざしている。このプロジェクトでは、ESTライブラリーの作成を進めるなど、分子生物学的アプローチをより本格的に導入し、花の色や匂い、開花時間などの適応進化に関わった遺伝子の実験進化過程での挙動をトレースすることを狙っている。こんな研究ができる時代が、こんなに早く来るとは思っていなかったので、わくわくする。ただし、ラボでの研究の比重が次第に増すので、この方向だけでは、生態学は、野外研究から遠ざかってしまうだろう。
3番目のテーマは、複雑な野外の系を扱う。なかなかに困難なテーマであるが、保全との関連で、社会的要請が高いテーマである。また、野外での生態学研究を発展させるためには、この分野でぜひ新しい展望を切り開きたい。はっきり言って、勝算はない。しかし、手がかりは出てきた。現在のところ、九大新キャンパス、屋久島、北川など、いくつかのフィールドで、群集パターンに関するかなり大規模なデータをとっている。その結果、べき乗則に従う場合と、従わない場合があることがわかってきた。今後は、GISを勉強して、地図上で数値化された環境因子のパターンとの相関を解析すること、徹底した系統解析によって、多様性のパターンと種の系統進化の歴史との関連を調べること、分散力に関わる種子サイズなど多様性の維持にとくに効果のある性質の種間比較を行うこと、などのアプローチを総合していくことが必要だろう。しかし、何か、欠けている。中立モデルとニッチ理論の間を埋める、さほど複雑ではない、見通しのよいアイデアがほしいという気がする。考え続けていれば、そのうち思いつくかもしれない。