生物多様性モニタリング:衛星観測と地上観測をいかにつなぐか?

11日は朝8時すぎにえびの高原を発ち、11時すぎに九大に戻り、1時から「衛星観測と地上検証によるアジアの生態系・生物多様性モニタリング」という研究会を開いた。講演したのは以下の8名。

趣旨説明:アジアにおける生物多様性損失評価をどう進めれば良いか?

衛星による植生観測の原理,データセット,これまでの研究成果

衛星画像データと地上調査による林相区分および樹冠粗密度・森林蓄積の推定:九大森林計画学研究室で実施している東南アジアでの画像解析の取り組み

トキプロジェクトにおけるGISの取組について:トキGIS

衛星観測,生態系機能研究と生物多様性観測の接点

衛星観測と地上検証による植生フェノロジーモニタリング

  • 永井信(JAMSTEC)

秋のフェノロジー観測はなぜうまくいかないのか?:高山サイトにおける地上検証

  • 石井励一郎(JAMSTEC)

さまざまな地域の植生変化のメカニズムをさぐる:地上観測と衛星観測の応用

この研究会の目的は、「生物多様性モニタリングにおいて衛星観測と地上観測をいかにつなぐか?」というテーマに関して、分野の異なる研究者の間で知識と情報を共有し、これからの研究の方向性を探ることにあった。グローバルCOE研究会として企画した研究会だが、GEO BONに対応するアジアの生物多様性観測ネットワーク(J-BON, AP-BON)を発展させるうえで、上記のテーマは避けて通れないという判断も念頭にあった。いずれJ-BONで上記のテーマについてしっかり議論する必要があると思うが、その前提として、私がまず衛星観測についてしっかり勉強し、いろいろな研究者の意見を聞きたいと考えた。
そのため今回は、「衛星と地上をつなぐ」ことに努力されている方々をお招きして、小規模の研究会を開いた。以下に、率直な感想を列記してみる。
(1) 衛星観測から入って地上をできるだけ詳しく見ようというアプローチと、地上観測から入って衛星を活用しようというアプローチは、現状では技術としてまだ十分にかみ合っていない。また、研究者どうしは、双方の問題意識を十分には理解しあっていない。
(2) 「衛星観測から入って地上をできるだけ詳しく見ようというアプローチ」では、衛星で見えているものを地上で検証するという問題意識が基本なので、衛星では見えていないものに、衛星画像の情報を間接的に活用するという発想はほとんどない。この点は、地上観測に身を置くものとしてはもどかしい。
(3) 一方で、地上観測に身を置く研究者がしばしば行う衛星画像の「安易な」活用は、衛星画像の問題点(さまざまな系統的誤差など)を知る研究者から見れば、もどかしいに違いない。
(4) 生物多様性観測において、「地上観測から入って衛星を活用しようというアプローチ」はまだ揺籃期にあり、活用法が体系的に整備されていない。生物多様性観測といっても生態系・種・遺伝子レベルの多様な内容を含むので、衛星画像の活用法はさまざまである。どのような活用法があるかについてレビューし、方向性を整理することが必要だ。
(5) このような衛星画像データの活用においては、GISが重要なツールとなるが、GIS研究者と衛星観測研究者の間にも溝がある。GIS解析ではベクトル形式を常用するが、衛星画像およびそこから得られる指標(NDVIなど)の地図はラスタ形式である。対応するソフトも、プログラミングの技も違ってくる。
(6) 加治佐さんが紹介された仕事は、地上で森林のバイオマスや林冠の状態を研究している立場で、衛星画像を有効に活用した成功例だ。この仕事の土台があるカンボジアで、種・遺伝子レベルの解析を進める計画を考えているのだが、この方向性は有望だと再確認した。
(7) 三谷さんが紹介されたWikiGISは、地図上の任意の地点(緯度・経度が特定された地点)にさまざまな情報を共同で蓄積していくシステムとして、非常に有望だと思った。また、地図データに関しては、最初から形式の統一をはかるよりも、Wikiベースでとにかく集めて共有し、その後で必要に応じて形式を変換するというやり方が現実的だと思った。

九大のGCOEでは、同じコアサイトで異なる分野の研究者が共同研究を進める計画なので、そのうち問題意識やアプローチがかみあってくると思う。この点に関してはあまり心配していない。しかし、J-BONやAP-BONのレベルで「衛星観測と地上観測をいかにつなぐか?」の方向性を整理するには、目標をはっきりさせて、目標を達成するために有効な指標について合意する必要があるだろう。今のところ、研究者の間で目標が必ずしも共有されていない。すべての研究者が同じ目標をめざす必要はないが、アジア太平洋地域の生物多様性観測研究の目標(群)について、研究者どうしが互いに了解しておく必要はある。そのためには、アウトプットとして提言文書をまとめることを課題にしたワークショップを開催する必要があると思う。
この間、J-BON, AP-BOPワークショップを開催したが、いずれの会議でも提言文書をまとめきれていない。私のほかに何人か、文書をまとめるスタッフが必要だと痛感している。