日本進化学会参加登録と要旨登録

その締め切りが今日である。昨年は学生実習と日程が重なったために参加できなかったが、今年は参加できる。楽しみだ。
今回は、シンポジウムと夏の学校に招いていただいた。

適応進化を支えた遺伝基盤(オルガナイザー:大島 一正・長谷部 光泰)

  • 藤原 晴彦「鱗翅目昆虫の擬態紋様形成の遺伝的基盤」
  • 矢原 徹一・廣田 峻・新田 梢・安元 暁子「昼咲きから夜咲きへの進化:F2雑種を使った野外実験とESTによる候補遺伝子探索」
  • 工藤 洋「異生態タイプ間異質倍数体(IETA:Inter-ecological-type allopolyploid)形成を介した適応放散」
  • 北野 潤「トゲウオの種分化とその遺伝的基盤」
  • 大島 一正・長谷部 光泰「複合進化の遺伝基盤:植食性昆虫における寄主転換」

このシンポジウムの要旨は、昨日登録した。

昼咲きから夜咲きへの進化:F2雑種を使った野外実験とESTによる候補遺伝子探索
矢原 徹一 、廣田 峻、新田 梢、安元 暁子(九大・院理)

植物の中には、夜にだけ開花する種がある。ユウスゲはその例である。その花には、夜行性の蛾による送受粉に適応した形質(甘い花香、黄色の花など)が見られる。一方、ユウスゲの近縁種であるハマカンゾウは、昼にだけ開花し、昼行性の昆虫(チョウ・ハナバチなど)に適応した形質(微弱な花香、赤色の花など)を持つ。昼咲き種から夜咲き種への進化の過程では、花香・花色など複数形質の協調系がシフトしたと考えられる。私たちは、ハマカンゾウユウスゲを、複数形質の協調系の進化を研究するうえでのモデルと位置づけ、研究を進めている。これまでに、種差の遺伝的背景を調べるために、ユウスゲとハマカンゾウのF1・F2雑種を育成した。また、F1のつぼみからESTを作成し、花香・花色の候補遺伝子を探索した。さらに、ハマカンゾウとF1/F2雑種からなる実験集団にアゲハチョウ類やスズメガ類を訪花させ、両者の花香・花色に対する選好性を調べた。これらの研究から、開花時間・花香・花色には、少数の主要遺伝子の変化が関わっており、これらの形質の進化は不連続的であったと考えられる。アゲハチョウ類は赤色を、スズメガ類は黄色を強く好み、花色への淘汰圧をもたらすが、花香に対する選好性は高くない。これらの結果をもとに、昼咲きから夜咲きへの進化の過程を推論する。

このプロジェクトでの私の役割はもっぱら監督業である。大学院生中心のプロジェクトの成果を私がまとめて紹介する。
夏の学校の方は、「植物の生態学」という間口の広いテーマをいただいた。何を話しても良いように、企画者側で配慮してくださったのだろう。次のような副題をつけて、要旨を送った。

植物の生態学:植物はなぜこれほど多様なのか?

全世界には、25万種の陸上植物が記載されています。この数字は、昆虫(75万種)に次ぐ値です。昆虫の多くは、特定の陸上植物を食草として利用します。したがって、陸上の生態系の多様性は、陸上植物によって支えられていると言っても過言ではないでしょう。では、植物はなぜこんなにも多様なのでしょうか? 昆虫がさまざまな植物に適応することによって多様化しているのに対して、陸上植物が利用する資源(光・水・栄養素)は共通性が高く、これらの資源を利用する方法の多様性だけでは、25万種もの種多様性はとても説明できません。陸上植物に見られるめざましい多様性を説明するために、たくさんの仮説が提唱されてきました。主要なものをあげると、以下のとおりです。(1)ニッチ分化説:微地形などに適応して多様化した。(2)中規模かく乱説:中程度のかく乱が種の多様性を高める。(3)ジャンセン・コンネル説:天敵や病原体によって優勢な種が不利になる。(4)中立説:中立的な種分化、移住、絶滅のバランスの下で多様性が保たれる。どの仮説にもそれを支持する証拠があるので、植物多様性の進化と維持には複数の要因が関わっていると見るべきでしょう。では、どの要因がどの程度重要なのでしょうか。この問に答えるためには、系統樹の情報が必要です。「種多様性の維持機構」という植物生態学の基本問題は、実は進化生物学の問題にほかならないことを説明します。そのうえで、どの要因がどの程度重要かについて、私の研究成果を紹介します。