べき乗則

yahara2005-05-13

5月8日のブログに対して、「一若手教員」さんから、「博士の研究能力モデルの計算ですが、重点化前後で、研究能力の分布が、同一のしかもパラメータが1個しかない単純な分布に従うという前提条件は受け入れ難いです。」というコメントがあった。今日はこの問題をとりあげてみたい。この問題は、実は私が大きな関心を払っている、生物種の多様性のパターンとも、深い関係がある。
九大移転用地では、「1種も消失させない」という前代未聞の保全目標を達成するために、275ヘクタールの用地全域で、徹底した植物の分布調査を実施した。調査の方法は、10m×4mの区画内の植物をすべてリストするという作業を、尾根筋や谷筋、農道などに沿って、延々と続けるという単純なものである。まずは、最初に造成工事が行われた第一工区について、延長13kmの、つまり1300地点の調査を実施した。これらの調査地には、照葉樹林・スギやヒノキの植林・竹林・果樹園跡地・畑の跡地・水田の跡地・湿地・小川など多種多様な植生や景観が含まれる。この調査結果から得られる種の分布パターンが、単純な分布に従うとは、到底考えられなかった。
この調査結果について、縦軸に1300地点中の出現地点数、横軸に出現地点数に関する種の順位をとってグラフに書いてみた。そのグラフが、右上に掲載されている図である。
驚くべきことに、結果は、指数関数によくあてはまる、きわめて単純な関係を示した。
この結果は、生物多様性保全を考えるうえでは、とても重要な意味を持っている。第一工区に見られた約400種の植物のうち、約半数の種は5地点以下にしか見られなかった。言うまでもなく、このような種は絶滅しやすい。生物多様性を減らすのは、簡単なのだ。
保全上の意味とは別に、右上の図が示す単純なパターンは、基礎科学のうえでも、とても興味深い。一見複雑に見える生態系の背後に、単純な規則が存在するのである。
実は、このようなパターンは、一見無関係なさまざまな現象に共通して見られ、「べき乗則」(power law)という呼び名で知られているものである。
マーク・ブキャナン著『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』には、「べき乗則」に従うさまざまな事例が紹介されている。たとえば、インターネットのリンク数の分布がその例である。あるいは、河川規模(集水域面積)の分布も、企業規模の分布も、ニューロンネットワークの分布も、セックスパートナー数の分布も、「べき乗則」に従う。1研究者あたりの年間発表論文数の分布が「べき乗則」に従うことも、かなり以前に確認されている。
これほど広範な現象に同一のパターンが見られ以上、このパターンの背後に何か共通の法則がありそうである。この問題をとりあげた好著が、マーク・ブキャナン著『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』だ.
これから打ち合わせなので、続きはのちほど(1:58at馬車道@合同庁舎5号館25階)。