キイチゴ類の浸透交雑

屋久島に来て3回目の朝である。幸い、今日も天気が良く、朝日がまぶしい。
25・26日は、安房林道上部4箇所に、常設トランセクトを設置し、植物の分布調査をした。これで、安房林道の調査は終了。計10箇所でトランセクト調査を実施した。十分とは言えないが、屋久島全域に調査地点を展開するための、現実的な選択をした。
すでに調査地点数は100を超えている。最初は1000地点という大目標を考えたが、再調査を実施することを考えると、300地点程度が現実的な選択だろう。
今回の安房林道調査では、トランセクト調査以外に、キイチゴ類の変異を観察し、標高別にサンプルを採集した。1000m以上の山地には、典型的なヤクシマキイチゴが分布している。こちらは葉が5裂し、葉裏の脈が細脈まで赤く、茎に刺が多い。一方、低地の林縁には、リュウキュウイチゴがみられる。こちらは葉が卵形で、葉裏の脈は緑色か少し赤みがかる程度で、典型品では茎に棘がない。ヤクシマキイチゴは葉がうすく、表面に光沢がないが、リュウキュウイチゴは葉が厚く、表面に光沢がある。いろいろな形質で違う2種であり、典型品を見れば、間違えることはない。
しかし、屋久島では、1000m以下の山地にどちらともつかないキイチゴが目立つ。分布調査のとき、同定に困ることが多かった。1代雑種の存在だけでは説明できない変異であり、きっと浸透交雑が起きているに違いない、と思っていた。
今回、バラ科植物の研究歴があるMさんに同行していただいて、標高別に詳しく観察した。およそ400-800mのゾーンで、浸透交雑が起きているらしい。このゾーンで2種を区別するのは、かなり難しい。
興味深かったのは、安房林道では低標高地でも、刺が多く、葉脈が赤いという性質を持つリュウキュウイチゴが多いことだ。ヤクシカの摂食圧の増大とともに、刺を増やす方向に淘汰圧が作用し、ヤクシマキイチゴの遺伝子の浸透が低地にまで及んでいるのかもしれない。
おそらく雑種は高い稔性を持っているのだろう。種形成や、種差の遺伝学的研究にとっては、とても面白い研究材料である。Mさんの研究成果に期待しよう。