カンボジア調査報告

カンボジア調査を無事終えて、16日に帰国。翌日の17日には屋久島に飛び、世界自然遺産地域の科学委員会、ヤクシカワーキンググループなどに出席。19日から昨日までは、授業、会議、実習などをこなしながら、急ぎの仕事に対応。そして、昨夜は研究室の忘年会。今年もいよいよあと1週間となった。
カンボジアでは、Bokor国立公園の約550m, 700m, 850m, 1000m地点でトランセクト調査をして、100m×5mのトランセクト内の維管束植物種をすべて採集・記録した。もちろん、その場では同定できないので、フィールド名をつけて区別する。サルトリイバラ属の場合、ジグザグ、ヤワラカ、ヘラクレス、ノッチ、マルバ、ホソバアオ、コバウラジロなどを区別。このように同属で類似した種が7つも8つも出現すると、特徴を迅速かつ的確にとらえて区別し、かつその区別点を記憶して、野帳に記録をとっていく能力が要求される。区別した「種」について証拠標本を作成し、あとで同定する。
前回のジャワ(グノン・ゲデ)やタイ(ドイ・インタノン)調査同様、今回もエキスパートチームで調査にあたった。この調査の前に実施したグローバルCOE実習では、100mの調査に4日間かかったが、エキスパートチーは100mの調査を2日でこなした。それでも2日かかったのは、調査地の種多様性が著しく高いからだ。850m地点では、100mで約270種を記録した。これまでの最高記録である。屋久島低地のもっとも多様性が高い場所では、100mで約120種。この2倍以上だ。すごい。
属はおろか、科もわからない植物も出現する。この場合、「ワカランノキ」「ワカランノキ2」などと命名して区別したが、同じ名前が3つ以上になると混乱するので、「コンジョウナシノキ」だの、「ヒルゴハンノツル」だのと、自分たちにとって覚えやすい名前をつける。これらについては今後、DNA配列から属を決め、最後は形態に依拠して同定作業を進める。ただし、科の見当がつかなかったのは10種未満だった。
記憶がうすれないうちに、もっとも厄介なグループのひとつ、サルトリイバラ属について、通勤中などを利用して、同定作業を進めている。まず、インドシナ植物誌(20世紀前半にフランスの植物学者がまとめた文献)でカンボジアに記録されている種をチェックする。また、ベトナムの植物については図鑑が出ているので、これをチェックする。ベトナム植物図鑑の図はかなり粗いのだが、それでも「絵合わせ」で似た種を探せるのはありがたい。最後の詰めは、タイプ標本や信頼おける同定がなされた標本を使う。幸い、今では、キュー植物園、パリ自然史博物館などのタイプ標本や重要標本の画像がウェブで見れるので、これらをチェックする。少し前までは、欧米のハーバリウムに出かけるか、標本を借用するしかなかったことを思うと、画期的な状況の変化である。多くの文献もpdfで見れるので、分類学的な同定作業の効率ははるかに高まった。
今日は自宅で、サルトリイバラ属の同定作業の詰めに時間を割いた。その結果、「マルバ」以外には、学名をつけることができた。「マルバ」は新種かもしれない。学名をつけた種の中にも、ぴったり合致しないケースがあるので、数種は新種が含まれているかもしれない。しかし、新種かどうかの判断をするには、花や果実の標本を得る必要がある。今回のトランセクト調査では、花や果実の標本が必ずしも採集できていない。花や果実を採集するには、季節を変えて、調査地を再訪問する必要がある。
現在、カンボジアの森林プロットの樹木・ツル植物に関する分類学的研究の論文をまとめており、ほぼ99%が完成している。サルトリイバラ属は種の同定作業が未完だったので、原稿に含めていなかったが、今日の作業で、原稿に書き込むことができた。できれば年内に投稿して、気持ちよく年末を迎えたい。