夜の闇をどう守るか

今年10月の新キャンパス開講を控え、保全緑地の整備計画を詰めている。照明の整備についてどう考えるかを聞かれたので、次のような意見を述べた。

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1.保全緑地内に関しては、原則として照明を設置しない。例外として設置するゾーンでは、以下のような配慮を行なう。

生物多様性保全ゾーンでは、ホタルの観察会、夜間のカブトムシの観察会など、夜間のイベントが実施される場合がある。エントランス付近にビジターセンターの設置が計画されており、ビジターセンターとその周囲には照明が必要である。ビジターセンター予定地はホタルの生息地に隣接しているため、最近松下電工が開発した、昆虫誘因性の低い加工を施した照明を用いる。また、農場ゾーンの水田からビジターセンター予定地に至る屋外の照明に関しては、赤外線センサーを装着して、人が通ったときだけスイッチをオンにする。またグローブ型の照明では、光が及ぶ範囲が広いうえに、ほとんどの光が横方向や上方向に向けられ無駄でもある。このため、水平方向以上に光が出ないようにしたフルカットオフ型の照明を用いる。

生物多様性研究ゾーンでは、理学部圃場の管理施設が計画されており、夜間の野外研究にも利用が見込まれる。圃場管理施設の照明は、ビジターセンターに準じる。

2.保全緑地に隣接する道路の照明に関しては、以下の点を留意する。

○可能な限り、高欄照明を採用し、路面以外に光が漏れないようにする。

○ポール上の照明を用いる場合には、ルーバーを採用して照明の届く範囲を限定し、保全緑地側への光の拡散を抑える。

3.教育研究棟から漏れた光が、昆虫を誘引することを避けるため、パンフレットなどを作成し、ブラインドの使用を呼びかける。とくに、ゲンジボタルの繁殖期に、ゲンジボタルへの影響の回避を呼びかけることで、保全緑地における光環境の保全への啓発をはかる。

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ホタルのみならず、野生の多くの動物にとって、夜の闇は、とても大切だ。九大新キャンパスの保全緑地では、「夜の闇」をぜひ守りたい。

「少人数ゼミナールC:九大新キャンパスにおける森林と水辺の生物の保全」の2001年度レポート集にある「道路照明や前照灯による影響の低減」の冒頭で、著者の麻川くんは、次のように書いている。なかなか、読ませる。

「一寸先は闇」という諺がある。今から三百年程前は数百万人の人々が住む江戸の街も夜になればこの諺の文字どおり一寸(=3.03cm)先が見えないほど真っ暗であったそうだ。ところが今日では東京(旧江戸)などの都市はもちろん、山間部までもが夜になってもさまざまな明かりで照らされ、昼間のように明るくなっている。都市の繁華街等を除いた地域ではその主な光源は道路の照明灯や車の前照灯(ヘッドライト)などである。もちろんそれらは安全のために欠かすことができない。しかし、それらの照明の光が道路の外に漏れることで道路の周辺に住む動植物に与える影響も少なくない。そこで実際に道路照明や前照灯が道路周辺の環境にどのような影響があるのか紹介し、その影響の低減のための対策を考察していく。また最後にこの考察をもとに九州大学移転地の生物多様性保全ゾーンとその周辺の道路の照明について提案したいと思う。

ウェブサイトに掲載しているのは、彼のレポートの一部である。ファイルではなく、紙でもらった部分も、できるだけ早くスキャナーでとりこんで、掲載しよう。