『幕が上がる』が楽しみ

試写会の評判が良いな。楽しみですよ。

新任教師の吉岡先生が「だったら見せてください」と言われて、さおりたちに演技をするシーンは、楽しみにしているポイントのひとつ。このポイントでの黒木華さんの演技は、やはり圧巻か。この演技のインパクトが、映画の序盤の流れを決定づけるから、演技派女優と言われる黒木さんとしては、妥協を許さない演技をされるものと思っていた。吉岡先生=黒木華のキャスティングは、原作を読むとこれしかないというくらいはまっている。「モジリアニ似」という原作の設定に合うし、すばらしい演技力の持ち主だし。さおりたち演劇部員の指導を通じて、吉岡先生が演劇への情熱を捨てきれない自分に気づき、さおりたちを「裏切る」流れを黒木さんがどう演じるか。とても楽しみ。原作『幕が上がる』書評にも書いたが、この物語は、さおりたちの成長の物語であると同時に、吉岡先生の成長の物語でもある。この吉岡先生の物語と劇中劇「銀河鉄道の夜」をサブストーリーとして本編にからませた原作は、何度思い返しても秀逸。
ももクロのメンバーの演技も評判が良いけど、これには3つの要因があると思う。第一に、彼女たちのライブ経験と平田オリザさんの演技指導は非常に相性が良いはず。歌を歌うという行為には、つねに正確なタイミングが要求されるし、その歌に合わせて踊る行為には、指先から足の先までの的確なコントロールが要求される。これはまさに平田さんが演技指導で要求することだ。すでに身体表現の基礎はしっかりできているから、平田さんが「勘が良い子たち」というのも納得できる。第二に、黒木華さんの圧倒的な演技が、きっと彼女たちの心に火をつけたはずだ。ももクロを育てた川上さんは、彼女たちに何度も、本物=圧倒的なプロの実力を見せつけることで、成長のエネルギーを引き出してきた。今回の本物は、黒木華さんだ。彼女たちは本物に出会うと素直に感動し、燃える。それが成長の原動力になる。第三に、原作が彼女たちの成長ストーリーにそっくりだ。平田さんがももクロを知らずに書いたとは思えないほど、そっくり。それだけ、ももクロの成長ストーリーに普遍性があるわけだ。そのももクロが、「演劇を通じて成長していく」という物語を演じる過程で、平田さんの演技指導を受け、黒木さんの演技を目の当たりにして、本当に成長しているはずだ。だから、演じる以上のリアリティがそこにある。このリアリティこそ、本広監督の狙いだろう。
何かに夢中になって、目標に向かって必死で頑張る、その毎日のキラキラした輝きを感じられる映画になっているに違いない。